この胸いっぱいの愛を

この胸いっぱいの愛を (小学館文庫)

この胸いっぱいの愛を (小学館文庫)

著:梶尾真治 イラスト: レーベル:小学館文庫
映画「黄泉がえり」の原作者・梶尾真治氏が、新たな試みとして取り組んだ、映画「この胸いっぱいの愛を」の原作者自身による異色のノベライズ作品。もし、自分がもう一度、やり直すことができる時間に戻れるとしたら。大好きだった年上の女性、自分を産んだ直後に死んでしまった母、交通事故で亡くなってしまった息子……。“あること”をきっかけに、過去に同時に戻ってしまった登場人物たちそれぞれの群像劇。

クロノス・ジョウンターの伝説を映画化したのを、原作者が再びノベライズを行うという珍しい形態をとった作品です。元々の作品ではクロノスジョウンターという過去に戻るガジェットを短編の主人公達が利用するという形で話ができあがっていたのですが、この作品では長篇に仕立てられ主人公達が過去移動に巻き込まれる形になっているので、全然違った印象を受けました。元々の作品では過去に戻ると、その代わりに未来に飛ばされてしまうんですが、その制約を取り払ってしまったのもいい方向に作用したと思います。20年前というとまだ幼い頃なので、いまいち文中の描写については分からなかったのですが、こういう情緒的なものをかくと作者は上手いですね。映像でもはえると思わせる作品でした。
ジョウンターに比べると一枚落ちる気がしますが、いい作品だと思います。消えた人を思うと苦いハッピーエンドといった感じでしょうか。