人間動物園

人間動物園 (双葉文庫)

人間動物園 (双葉文庫)

記録的な大雪にあらゆる都市機能が麻痺するなか、汚職疑惑の渦中にある大物政治家の孫娘が誘拐された。被害者宅の至る所に仕掛けられた盗聴器に、一歩も身動きのとれない警察。追いつめられていく母親。そして前日から流される動物たちの血・・・。二転、三転の誘拐劇の果てにあるものとは!?連城マジック炸裂の驚愕ミステリー。


女の子が誘拐されたということでその家に向かったものの、その家は盗聴器に囲まれていて入ることが事実上不可能であった。その為警察は通報を行った隣家に陣取りこの誘拐事件の捜査を始めることになったという、人間動物園というタイトルからはちょっと想像がつかない作品。被害者の家に捜査側が入ることが出来ないという特異な状況を考え出したその発想にまず完敗。
事件に関わる人間達を動物の比喩を使いながら描写し、意図的にそこに断片的に疑わしい描写を交えておくことで、被害者の両親をはじめ誰もが誘拐事件を起こす可能性があるように見せる様はとても上手い。事件が起きてから、内部では盗聴器に細心の注意を払った動きが起きているものの、外側から見たところでは動きがないという前半の張り詰めた部分を支えて、後半の一気呵成の展開ととある独白につなげる上での役割を見事に果たしていると思います。ちょっと描写の仕方がエグイ気もしますが。
最後のどんでん返しを始め、二重三重に張られた伏線など、強引なところは見られるものの技巧的にはとても素晴らしい作品だと思いますが、それでもあまり良いようには思えないのは犯人がこの犯行を行う動機となった部分が自分には理解しづらいものだったからかな、やっぱり。動機について動物に一部を仮託した抽象的な描写が多かったのがあって、犯行につながるような明確な怒りを感じられなかったのが大きかったです。これがこの事件を起こした動機としてしっくりくるならば、とても面白いと思える作品だったと思いますが、その点だけがどうしても受け入れづらく感じてしまうのは残念でした。ただ、意表をつく事件の展開だけをとっても他に類を見ない、一級品と呼ばれるのに値する作品だと思います。