由仁葉は或る日
- 作者: 美唄清斗
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1994/11
- メディア: 単行本
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古本。過去の鮎川賞の最終候補作。
作者が盲人であり、作品は音声ワープロという独特のスタイルで上梓された作品です。盲人が多い文芸クラブに晴眼者の女性が参加することで、彼らの間に広がる波紋を描いたもの。
盲人の世界というものはなかなか分かりにくいものですが(特にその状況にある人が主体となっている場合)、自身がその状況にいられるということもあってか、それまでに読んだ作品での描写ともひと味違ったさらりとした書き口が強く印象に残る物でした。日頃の描写の部分では目の見えない苦労などの描写はほとんど行われないのですが、時折描かれる目が見えないことの怖さは真に迫ってきます。描写のされ方に説得力というか、リアリティがとても感じられます。
その世界に美唄氏の過去の体験を半ばなぞるようにして(と思うのですが)作品中に登場させることで、作品自体の世界観についても現実味を持って補強されていて、自分が知らない盲人の世界というものをのぞき見ている印象を抱かされました。その意味では美唄氏にしか書けない作品なのかなとも思います。
また、文章に対する細やかな気遣いには感嘆しました。文章に仕込まれたメッセージに近いとある暗号があるのですが、よくぞこれだけいろいろと考えられているなと。作品全体としては仲間内での確執が噴出するので後味が悪い部分もありますが、正統派のミステリ作品の良作だと思います。他の人の目から描写されることでミステリアスに映るゆにはの姿や、明石の娘の明るいキャラクターが、過去の回想などを挟んで暗くなりがちな雰囲気を救っているのが嬉しい。
今は執筆されていないのかな、ちょっと残念です。