“文学少女”と繋がれた愚者

“文学少女”と繋がれた愚者 (ファミ通文庫)

“文学少女”と繋がれた愚者 (ファミ通文庫)

「ああっ、この本ページが足りないわ!」ある日遠子が図書館から借りてきた本は、切り裂かれ、ページが欠けていた―。物語を食べちゃうくらい深く愛する “文学少女”が、これに黙っているわけもない。暴走する遠子に巻き込まれた挙句、何故か文化祭で劇までやるハメになる心葉と級友の芥川だったが…。垣間見たクラスメイトの心の闇。追いつめられ募る狂気。過去に縛られ立ちすくむ魂を、“文学少女”は解き放てるのか―?


ああもう琴吹いじらしくてかわいいよ琴吹。素直になれないのに、劇の練習で自分の配役が恋している大宮を主人公にやらせて、「あなたのものになって初めてわたしはわたしになるんです」なんてセリフを読み上げるあたりとかたまんないです、もう。やっと鈍い心葉と繋がりができてきたのに、彼が心に抱えた闇を遠子先輩が解消する形になっているのがとても残念です。傷ついてどす黒くなった心葉の心中を見抜いてフォローする、文学少女の面目躍如な遠子先輩はかっこいいですけどね。
それはさておき、恋と友情の板挟みになる大宮とヒロイン杉子を一途に慕う野島、そして大宮を愛する杉子の三人の姿を描いた武者小路実篤の「友情」を劇のテーマとして取り上げた本作。その劇に参加している芥川が愛情が執着へ、そして妄執へと変わっていったものに絡め取られていき苦悩する姿が痛ましく、前向きになって関わったが故にそれに弾かれて傷つく心葉の姿もまた酷く痛ましい。自分も事情を背負っているのに、皆が背負うものを受け止めて、解消していく遠子先輩の姿が光ります。芥川を苦悩から解き放つ劇のシーンなんかは文字通り「役者が違う」といった感じを受けました。
しかし、種明かしの方はかなり早く割ったなと思ったのですが、そのあとにあれだけのものがあるとは。そろそろ終わりが見えてきたけど、こうなると標的は遠子先輩でしょうか。これまでにさんざん過去の蜜月について語られているだけに、手紙が喚起するしっぺ返しの印象が怖い怖い。
ところで、一番インパクトがあるのは、ほのぼのしたところで、突然表情がお面のようにがらりと変わって、冷や水を浴びせた竹田さんの姿でした。なんでこうなのかを忘れていたので、これには不意打ちを喰らったなあ。もう一度1巻を読み直してみようと思います。