緋友禅

旗師・冬狐堂 緋友禅 (文春文庫―旗師・冬狐堂 (き21-4))

旗師・冬狐堂 緋友禅 (文春文庫―旗師・冬狐堂 (き21-4))

著:北森鴻 イラスト: レーベル:文春文庫
わたしは宇佐見陶子と申します。骨董業―といっても旗師といいまして、店舗を持たずに競り市から競り市へ、骨董店から骨董店を渡り歩いて品物を仕入れ、流通させるバイヤーのような存在なのです。骨董の世界は、魑魅魍魎の住処と言われます。時に悲劇が、時に喜劇が、ない交ぜに流れて人々を押し流してゆく。そうした光景が日常的に観察される世界です。騙しあいと駆けひきの骨董業界を生き抜く美貌の一匹狼。古美術ミステリー。

古美術のミステリーというよりもむしろエンタメ性が強い短編集です。主人公・宇佐見陶子が探偵役となっていて、骨董品に対するうんちくも半ばメインをはるほどくわしいです。作品からは美術品に携わる人間が美術品に掛ける愛情だけでなく、そのものを通して親しい人に対する愛情を表わしているのが垣間見えます。物語自体の趣向としては一つの割れた陶器に掛けられた謎が二転三転する「陶鬼」が、製作者のすざまじい執念が見られる「緋友禅」も良かったです。また、「奇縁円空」の円空複数作者説は面白い発想だと思いました。別シリーズの主人公連丈先生(多分そうだよね)もこっそり出演してます。ミステリーを期待するとそこまでではないかもしれませんが、自分は古美術の話も物語としても楽しめました。