さよならの代わりに

さよならの代わりに (GENTOSHA NOVELS)

さよならの代わりに (GENTOSHA NOVELS)

著:貫井徳郎 イラスト: レーベル:幻冬舎ノベルス
劇団“うさぎの眼”の看板女優が、上演中に控え室で殺害された。事件と前後して現れた、真犯人の存在をほのめかす謎の美少女。駆け出しの僕は、彼女と共に事件の真相を追い始める。彼女に振り回され、時折見せる曖昧な言動に戸惑いながらも、僕は、その不思議な魅力に次第に惹きつけられていく。しかし、彼女は、誰にも言えない秘密を隠していた―。
貫井徳郎のノベルス落ち作品。ほろ苦さを含んだ青春ミステリとして本当にすばらしかったです。いやもう、切なくて。
主人公は少し歯がゆいんですけど、これは自分が読者の立場だから欲張りかな。
事件のトリック自体は大味で、いまいちでした。けれども、祐里が本当に未来の人間であるのかどうかの考証と、その後に来るタイムスリップのネタは煩雑だけど面白かったです。過去が確定していないのに未来が決定するのは、未来が変更されることを拒んで時の揺らぎが起きないせいだけれども、未来の決定が時制的には過去の(彼女にとっては未来の)本人の意志にかかっているというのは少し不安定な気もしますが。
ラストは話は全然違うんですけど、梶尾真治の「時尼に関する覚え書き」をちょっと思い出してしまいました。この世界にいる間、彼女の心理はどのようなものだったのでしょうか。あの一言と読み終わった後にくるタイトルも秀逸。