ハナシがちがう! 笑酔亭梅寿謎解噺

笑酔亭梅寿謎解噺 1 ハナシがちがう! (集英社文庫)

笑酔亭梅寿謎解噺 1 ハナシがちがう! (集英社文庫)

上方落語の大看板・笑酔亭梅寿のもとに無理やり弟子入りさせられた、金髪トサカ頭の不良少年・竜二。大酒呑みの師匠にどつかれ、けなされて、逃げ出すことばかりを考えていたが、古典落語の魅力にとりつかれてしまったのが運のツキ。ひたすらガマンの噺家修業の日々に、なぜか続発する怪事件!個性豊かな芸人たちの楽屋裏をまじえて描く笑いと涙の本格落語ミステリ。


いやこれは面白い。田中啓文さんといったら駄洒落とグロの方という認識を改めさせられました。
退学した高校の先生に無理矢理落語家への弟子入りをさせられた竜二が、気まぐれな師匠のもとで落語家として成長していくお話。上方落語のお題が連作短編のタイトルになっています。
酒飲みの暴力師匠に落語家に弟子入りしたのに金髪鶏冠頭ですぐ辞めると言い出す弟子、と人間的には多々問題がありますが、梅寿と竜二のお笑いにかける熱意は本物。それ故に竜二が紆余曲折を経ながら落語家として育っていくお話は素直に応援することができました。梅寿師匠が飲みつづけるダメ人間のようで、またまわりの人をよく見ているんですよね。
ちくちくと竜二をいたぶる兄弟子の梅雨、落語の才はイマイチながら面倒見がいい姉弟子の梅春、ピンの芸人をやりながら竜二も応援してくれるチカコ、そして各話に登場する様々な芸人衆らまわりの個性豊かなというより、クセのあるというべき面々も物語を盛り上げます。
どの短編も甲乙つけがたいですが、やはり師匠に破門を言い渡された竜二が家出してしまう「子は鎹」と、前半と後半で兄弟子の梅毒のイメージががらっとかわる「住吉駕篭」のニ編が良かったです。
個々の短編においては笑いを振りまきながら、その短編の題目にそった人情話として物語を成立させ(謎解きもあります)、全体を通しては竜二の成長物語として成立させる手腕が凄い。解説の桂文珍さんがおっしゃっていましたが、これは大の落語ファンである作者だから書けた作品なんでしょう。上方落語への愛があふれた一品です。また、監修されてる月亭八天さんの短編の扉のところのエッセイ風の小咄もなかなかいいです。
出たばかりの続編の単行本買っちゃうかも…。