文学少女と飢え渇く幽霊

”文学少女”と飢え渇く幽霊 (ファミ通文庫)

”文学少女”と飢え渇く幽霊 (ファミ通文庫)

文芸部部長・天野遠子。自称“文学少女”。彼女は、実は食べ物の代わりに物語を食べる妖怪だ。彼女の後輩・井上心葉は、常に彼女に振り回され、「おやつ」を書かされている。そんなある日、文芸部の「恋の相談ポスト」に「憎い」「幽霊が」などと書かれた紙片や、数字を書き連ねた謎の紙が投げ込まれるじ。文芸部への挑戦だと、心葉を巻き込んで調査をはじめる遠子だが、見つけた「犯人」は、「わたし、もう死んでるの」と笑う少女・夏夜乃。しかし、その少女は蛍という名前で、調べてみると夏夜乃という少女は既に死んだ彼女の母親のはずで…。


小説を食べ物のように味わうことができる少女と彼女の食事を提供する役割を仰せつかっている少年が怪事件に巻き込まれる物語、第二弾。
今作は嵐が丘をモチーフにしています。元の作品を読んでればもっと楽しめるだろうなと思いつつも、名前しか知らないのが残念。遠子先輩がアウトラインは説明してくれるからいいですけど。
登場する主役達は皆がどこか愚かで、狂おしいほどの思いを抱いています。思わぬ展開にハラハラさせながら、終盤にかけてベールをはがすように、その愛憎劇が明らかになるところは凄みを感じました。人間関係の構成自体が、まんま嵐が丘というのはちょっと捻ってほしいところもあったんですが、作品とシンクロさせることで展開に重みを与えるのは相変わらず上手い。誤解によるすれ違いが狂おしいほどに痛いラブストーリーです。そして彼女が心に秘め続けた想いが切なくてたまらない。
また、作品を世に出したために大切なものをなくしてしまった心葉が、時間を戻すことができるという言葉を囁く夏夜乃の姿に、自らを重ねてしまうところがなんとも痛々しい。ところで、彼についてはどこまで細かいことを知らせず引っ張るんでしょう。彼がふさぎ込む元となったミウについても何か捻ったところがある気がしますが。
遠子先輩が心葉が書いた作品がどんなまずい作品であったとしても、文句をいいながら食べるところが彼に対する好意を感じられていいですのう。幽霊におびえながらも必死で表面に出さないようにして校内を探索する活動的な姿もいいですが、口絵の最後のところみたいな文芸部での活動をしているシーンがやっぱり大好き。もう一人のヒロインの琴吹さんも、主役クラスまで登場するところが増えて良かったです。こっちの日常パートがともすればシリアスに傾きそうな作品を、絶妙なバランスで支えているのがまた上手い。