黄金の魔女が棲む森

黄金の魔女が棲む森 (トクマ・ノベルズ)

黄金の魔女が棲む森 (トクマ・ノベルズ)

神狩りの森には二人の魔女がいて、一人は醜悪な老婆、もう一人は赤い髪をした小娘という。異母妹のベーダを刺した罪で王宮を追放されたアエスティ族の王女シフは、魔女と恐れられる老婆・ルヴァーと〈神狩りの森〉で暮らしている。十八年前、ベーダはフン人との政略結婚を嫌がるあまり、シフの目の前で自らの喉に小刀を突きつけた。それを制止しようと、シフはやむを得ず彼女を刺してしまったのだ――。ベーダは一命をとりとめるも、十三歳のシフはそれ以来、その咎を負い歳を取ることがなくなっていた。そんなシフのもとへ、ある日ローマ皇帝に仕える騎馬隊がやって来る。皇帝の愛妾となったベーダが東方の都コンスタンティノポリスで病に臥し、シフを連れてくるよう懇願しているという。ローマ兵に捕われたシフはローマに向かう途中、騎馬隊を率いる騎兵隊長レギウスの寝所に忍び込んだが……。


edgeノベルスの新人さん。ローマが分裂していた古代を舞台として、少女のまま年をとらない赤毛の魔女とそれを王命で捕まえに来た騎兵隊長のローマ帝国までの旅路を描いたファンタジー。史実を基にして、きちんと作りこまれた舞台は存在感を醸し出していました。
シフが夜に死の王に追われるという序盤の展開を見たら、ホラーに近い作品なのかと思いましたが、謹厳実直で貞操にもうるさい騎士のレギウスとそんな彼や金髪の男と子をなそうとするシフの会話がそんな雰囲気を吹き飛ばしてくれました。下の話が多いのですが、底抜けに明るいシフのキャラクターのせいかカラッとしていて生臭さをあまり感じさせない。傲慢なダキア総督を子を産むために襲おうとしたシフと、総督との問答あたりがとても面白かったです。二人が彼女の永遠を求める敵に襲われながら苦難の道中をすごすうちに、ある種の信頼感というものが生まれて、頑なだったレギウスの態度が段々と変わっていく姿も良かったですねー。
終盤まで、何があろうと終始一貫しているシフの行動の、真の目的が明らかにされないのが物語的にもひき付けてくれます。文章がところどころ読みにくいと感じるところがあるし、物語にあまり関わりのない設定や、色々なキャラクターが終盤でどっと出てくるのはどうなんかなという部分はありますが、彼女の思いが分かる味のあるラストは良かったです。こんなファンタジーをまた読みたい。