ジャストボイルド・オ’クロック
- 作者: うえお久光,藤田香
- 出版社/メーカー: メディアワークス
- 発売日: 2006/09/01
- メディア: 文庫
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うえおさんの新作。人々は思考部分で生まれたときから家電とつながり、切り離すと死んでしまうこともあり、自己を持つ家電と共依存して生きている世界。主人公は人々を守るためのヒーローだったが、ある事件がきっかけで裏切り者と指弾され、探偵に転職してしまっているジュードとその相方の目覚まし時計の家電のアル。そんな彼らの元にヒーロー連続殺人事件の調査の端緒として、人探しの依頼が入るというお話。
世界観が小出しにされるので、その全体が説明されるまでは、どんな世界で、主人公がどうなっているのかがつかみにくくて読みにくいという弱点が。これまでとは文章のスタイルを変えているからかもしれませんが、薄々は感じ取れるものの全貌が明らかになってくる中盤ぐらいまでは少々辛い。
舞台は言葉遊びも入って少々コミカルな設定ではあるものの、その上でつむがれるストーリーはまさしくハードボイルド。いや、ジャストボイルドか。生真面目な人を軽口で韜晦しながらも、秘密を胸に抱え自らが信じるもののために戦う姿はまさにそのもの。やせがまんも上手いしね。そしてそんな過去を振り切って、終盤の戦いに臨む姿はとても熱い展開です。
何より、相棒のアルとのコンビが最高でした。憎まれ口をたたきあいながらも、ここぞというときは意思が通じ合っている、そんな二人の掛け合いが本当にすばらしい。後半で彼らが本来の相棒とは違うとこちらに分かるだけにより一層。ジュードを慕ってくれるヒーローの後輩のエリカと彼女の家電のカノンの結びつきの強さも良かったですけど、この二人の関係の前には敵わないよなあ。
登場人物が魅力的だし、顔みせだけで終わっちゃっている人もいて、これ一冊で終わらせるのは本当にもったいないので、是非とも続編を出してほしいです。
次は没にならなければ、悪魔の原稿だそうで。長かったなー。