図書館内乱

図書館内乱

図書館内乱

相も変わらず図書館は四方八方敵だらけ! 山猿ヒロインの両親襲来かと思いきや小さな恋のメロディを 叩き潰さんとする無粋な良化「査問」委員会。 迎え撃つ図書館側にも不穏な動きがありやなしや!? どう打って出る行政戦隊図書レンジャー! いろんな意味でやきもき度絶好調の『図書館戦争』シリーズ第2弾、ここに推参!
――図書館の明日はどっちだ!?


傑作でした。個人的には最近のベスト。全体としてはひとつながりの話なんですが、前巻の主要人物それぞれにスポットをあてた短編集のような面もあるお話です。全体としては前巻の良化特務機関との対立を描いたのとは一転、図書館勢力内部での様々な対立が中心となっていて、戦闘の部分は少なめ。
前作で登場した皆がそれを下敷きにして、コミカルでテンポの良い会話によって、いきいきとした姿を見せているのが何とも言えず嬉しい感じです。その中でも前作ではあまり感じられなかった一人の本を愛する人間としての、郁の精神的な成長が胸にジンときます。同じ部隊のほかの人間と比べれば、能力的に一枚も二枚も劣るかもしれないけれども、本とそれを読む人を愛することだけは誰にも負けない少女が、その本音だけでは生きられないということを痛感させられながらも、その根本だけは曲がらない姿が素晴らしい。おそらく同じ道をたどったであろう堂上と本当にお似合いです。そんな彼女をやきもきしながら最後まで付き合い続ける堂上の姿も微笑ましくていい。この作品では押されっぱなしですがね。
テーマのほうも図書館にまつわる多種多様のことですが、それに対しての相反する反応のどちらが正しいと言い切ることが出来ないのが複雑。少し前に記事にもなった未成年犯罪者の実名報道の図書館の閲覧制限なんかもでていて、そちらも考えさせられました。
「両親攪乱作戦」
田舎から上京してきた郁の両親に郁が特殊部隊にいることを知られずに、帰そうとするミッション。
郁が必死で分からないように糊塗しようとしているところが笑いどころ。落ちのところがある程度分かっていても、娘を見守る親父さんの姿が心打たれるお話でした。
「恋の障害」
笑う正論小牧と彼を慕う難聴の少女の物語。
こだわりすぎて融通が利かない男達に対しての、女子陣の一喝がなんともスカッとします。そして終盤の小牧の独白と、その後のエンドが素敵。お気に入りです。
「美女の微笑み」
柴崎と彼女に近づいてきた朝比奈という青年のお話。
女子の陰湿な計算に基づいた煽りがとても怖い。郁を面白く見守っているノリの良い友達といった柴崎の印象がかっこいい方向にガラッと変わりました。また、未成年犯罪の実名報道記事について、玄田と折口の葛藤している姿が魅せます。恋人ではないもののお互いのことを分かりあっている関係というのもいいですね。
「兄と弟」
自分とは真逆の考えを抱いている兄と、手塚の関係がメイン。毒舌レビューを通して、図書館の中立性ということついても考えさせられるものでした。毒舌レビューについてだけは確実におかしいと思えるものでしたが。
このあたりから全体としてのまとめも入っていて、人間関係が錯綜しています。郁も事件に巻き込まれて最終章へ。
「図書館の明日はどっちだ」
あああ、こんな、こんな、引きはなんと極悪な。(一つの作品としてのけりはきちんとついていて、多角的な視点から全体の構成が分かっていく様はすっきりしました)

月末発売の、作中でも言及されていた「レインツリーの国」も凄く楽しみです。