初恋よ、さよならのキスをしよう

娘と訪れたスキー場で、柚木草平は高校時代の初恋の女性・卯月実可子と二十年ぶりに出会う。以前と変わらない美貌のまま、雑貨店オーナーとして活躍していた彼女が、再会後まもなく何者かに殺害される。実可子の姪から事件の調査を依頼された柚木は、高校の同級生を順に訪ねていくが…。事件の謎とともに、青春のほろ苦い思い出が柚木を深く悩ませる、私立探偵シリーズ第二弾。


元刑事の中年探偵・柚木草平を主人公としたシリーズ第二巻。
前作に出てきた魅力あふれた登場人物が彼の娘(妻も)を除いてまったく登場しないというのは、少々残念。ただ、娘の加奈子は相変わらず女に弱くて約束をすっぽかしてしまうダメな父親に対してチクリチクリとやっていて、登場する部分が少ないながらも存在感は抜群。やっぱりこの子好きです。
修羅場で終わった前作のように、本作にも初恋の女性の姪のヒロイン役に近い女性が登場しますが、前作の印象に比べるとその存在感は比較的薄い気がします。絡みが少ないというのがやっぱり大きい。数少ないシーンも草平さんが(表面上)ことごとくつれないというか、お互いのいがみ合っている印象が強いというのがほんとのところ。そうしてケイの内面描写が徹底して行われないなか、ラストシーンを見て、彼女がどのように草平を考えていたかと推測するのも面白いです。
作品のテーマは青春の思い出。高校時代には仲間であったはずの皆に、十数年ぶりに再会してみたら自分が入るところなどない「その後」が構築されていて、捜査をする中で仲の良かった高校時代をダブらせてみていたのが、自分が知らないドロドロしたところを見せられていきます。物理的なトリックよりも、心理的な部分が大きかった事件の謎に迫りつつ、その過程で彼らのその後と、今を暴かなければならない姿が切ない。そして、そんな自分の青春時代の美化された思い出の残滓を片付けに向かうところが印象的でした。タイトルについては草平の態度からは、あまり初恋の君という印象は受けませんが。
前作では明かされていない草平の過去が見えてくるところも物語に彩を添えています。