クジラのソラ 01

クジラのソラ 01 (富士見ファンタジア文庫)

クジラのソラ 01 (富士見ファンタジア文庫)

10年前。地球は異星人の圧倒的艦隊の前に全面降伏した。彼らが人類に課したのはたったひとつのシステム。“ゲーム”。各国政府の後押しをうけ、人々は“ゲーム”に熱狂した―。“ゲーム”のWG優勝者であり、宇宙へ旅立った兄の後を追う少女・桟敷原雫。しかし、チームメイトと仲間割れし参加資格を失ってしまった雫は、伝説のメカニックと言われる聖一を自分のチーム“ジュライ”に引き入れようと奮闘する。「仲間になってもいい。ただし、彼女に勝ったらな」。聖一が出した条件。それは、従妹の冬湖に“ゲーム”で勝つこと。雫は勇んで“ゲーム”に臨むが!?「リリック―くじらたちの歌を聞くの」宙にくじらの旋律が響く時、“ゲーム”は真実の姿を雫の前に現す―。


瀬尾さんの新作。
舞台は異星人に支配され、仮想宇宙での艦隊戦のゲームを勝ち抜くことによって栄誉と新しい技術を出身の国が手に入れることが出来、そのチームは宇宙へと旅立つことができる地球。主人公の片方・雫は天才的メカニックの聖一をチームに加えようとするが、もう一人の主人公・聖一は過去の大会に参加することによって大会の現実をみており、参加について一つの課題を出す。その課題をクリアされた彼がなし崩し的に参加することになった、チームジュライの戦いを描いた物語。
異星人に支配された世界という舞台設定に、肝心の異星人も一切出てこないしあまり詳しい説明がなされていないので、その点についてはおいおいということなんでしょうか。
物語は結成されたばかりで未熟なジュライというチームの成長がメイン。中でもスポットを当てられた、プライドが高く優秀な存在ではあるものの格別に傑出したところがない雫の、戦いながらの成長の部分が燃えます。チームメイトに天才的なプレイヤーである冬湖と一芸に秀でて、その技については何者にも劣らないという智香を配置することによって、宇宙に旅立った兄を追うために気張っていて最初はリーダーを自ら任じていた雫が、味わう挫折や圧倒的な力を見せ付けられたときに抱く劣等感につぶされそうになる姿、そこがあの場面での復活につながっているのが手に取るように克明に描き出されています。アウターシンガーという形での成長を選択されている点はちょっと不満もありますが。
戦闘を行っている部分の描写は少な目ながら、メンバーが共に生活する中で、ぶつかり合い成長していく様も良かったです。戦闘の力はピカイチながら甘さが抜けない冬湖としっかりしているが故にそれに苛立つ雫、ばかっぽそうに見えて二人の姿をしっかりと捉えているように見える智香のトリオが何ともいい組み合わせ。
そんな彼女達の成長や甘ったれだった冬湖の前向きな姿を見ているあいだに、過去の経験のせいでシニカルになっていた聖一がほだされていくのも自然でうまいなと感じさせられました。また、チームとして戦っているのに、彼だけはプレイヤーとして参加しないために感情を共有することが出来ず、宇宙に旅立つ際にも、一人置いていかれるという寂寥感が何とも切ない。みんなが自分をおいていってしまう悲しみも言動として表に現さないだけにより一層。
アウターシンガーの設定や宇宙に旅立った人たちがどうなってしまうのかなんかを考えると、展開は心配なのですが、この先もとても期待が持てるシリーズです。圧倒的過ぎるアウターシンガーに対抗できる力とかがあると、この先面白そうですがどうでしょう。