はじまりの島

はじまりの島 (創元推理文庫)

はじまりの島 (創元推理文庫)

1835年9月、英国海軍船ビーグル号は本国への帰途ガラパゴス諸島に立ち寄った。真水の調達に向かう船と一時離れ、島に上陸したのは艦長を含む11名。翌日、宣教師の絞殺死体が発見された。犯人は捕鯨船の船長を惨殺し逃亡したスペイン人の銛打ちなのか?若き博物学ダーウィンが混沌の中から掬い上げたのは、異様な動機と事件の驚くべき全体像だった!


柳さんの初文庫化作品。ダーウィンを探偵役に据え、ワトスン役となる画家の視点から描かれた物語。
進化論を当人が提唱する前の世界を舞台としているということで、人知の行き届かない超自然的な現象が起こっている可能性を考慮しているのが興味深い。
連続殺人事件の謎の方は取り立てて目立つところはあまりなし。しかし、知的好奇心に燃えた若き日のダーウィンの姿が、それに対してキリスト教的価値観の中で彼の意見に対して様々な反応を見せる人々の姿がしっかりと描き出されているのが面白かったです。特に彼の意見に触れたことによる意識の変化が、事件の重要なファクターとしての役割を担っているのが、その部分がちょっと強調されすぎな点もあるものの齟齬なく事件に組み込まれていて、よく出来ているという印象でした。
キリスト教的価値観を破壊することによってどんなことが起きてしまうのかということは考えず、ただただ自分の好奇心を追い求めていた青年ダーウィンの事件を通した変化を描くことに、(後半でのその点についての言及が減ってしまったところは残念ですが)成功していることで、歴史的に有名な人物を中心に持ってきた意義がある作品だと思います。
本書のテーマとしては進化論だけではなく、それ以外に未知のものとの遭遇による価値観の破壊というのもあるのかもしれない。