シャドウ

シャドウ (ミステリ・フロンティア)

シャドウ (ミステリ・フロンティア)

人間は、死んだらどうなるの?―いなくなるのよ―いなくなって、どうなるの?―いなくなって、それだけなの―。その会話から三年後、鳳介の母はこの世を去った。父の洋一郎と二人だけの暮らしが始まって数日後、幼馴染みの亜紀の母親が自殺を遂げる。夫の職場である医科大学の研究棟の屋上から飛び降りたのだ。そして亜紀が交通事故に遭い、洋一郎までもが…。父とのささやかな幸せを願う小学五年生の少年が、苦悩の果てに辿り着いた驚愕の真実とは?


母親の死を契機に、少年の周りの世界に綻びが見えてくるなかで、家族の形を取り戻そうとする少年の奮闘は実るのか、というお話。様々な視点から描かれていくうちに冒頭ではきちんとした姿をしていたはずの誰もが疑わしく見えてくるなかで、きちんとはってあるはずの伏線を見落としてしまうのは感嘆すると同時に悔しい。読みやすく(敷居を低くして)さらにテーマ性をも織り込んで作った中で、構成をこれだけきちんとして、伏線を張った手腕はもう脱帽するしかないです。これだけたくさんのものを詰め込んでいるのに、適度な長さで破綻なく纏めているのは新人離れした力を持っていますねえ。
分かりやすい伏線があって自分が思ったとおりに展開していく快感、しかし真相はそこをすり抜けて、何度もそれを覆す展開は物語との乖離もなく、本当に素晴らしかった。そして騙され続けたが故に、全ての真相が明らかになったラストはすっきりとして清清しい。ただ、家族の姿を取り戻そうとした少年に対してあれを救いといってよいのか、そしてラストを演出するために用意された物事に痛みを覚えます。物語のつくりが素晴らしい作品だけれど、お気に入りではないなあ。