海上タクシー〈ガル3号〉備忘録

海上タクシー<ガル3号>備忘録 (創元推理文庫)

海上タクシー<ガル3号>備忘録 (創元推理文庫)

16ノットで1時間、これで尾道に着くことは出来ますか。瀬戸内で海上タクシーを営む寺田の元に、殺人事件の容疑者が主張するアリバイを崩すべく、刑事が聞き込みにやってきた。容疑者は熟練の同業者。寺田は物理的に不可能な壁を上回れるか? 堅固なアリバイにもたらされる驚愕の解答「見えないロープ」をはじめ、海上タクシー〈ガル3号〉船長の寺田と助手の弓が遭遇する7つの事件を収録。『二島縁起』姉妹編。


何でこの方は海上タクシーという本当に限られた縛りの下で、これだけバラエティ豊かな短編集を作り上げることが出来るんでしょう。と感嘆してしまう短編集でした。
「二島縁起」で探偵役を務めた寺田が同じく探偵役となっています。物語は無論のこと、世捨て人に近い彼が時折見せる姿も面白かったし、扉のところに地図があるおかげで情景が想像しやすかった。
「N7↑」
タクシーに乗っていた母親は本当に不注意で息子を海に落としてしまったのか。物語としては動きがあまりないものの、事実を確かめるための発想が面白い。爽やかな後味を残す作品です。
「部屋の瀬戸」
乗客の指示は部屋の瀬戸で停泊して、待ち合わせをするようにということだった。なぜ彼はそんな指示を出したのか。事実が分かった後で解決のためにとる、思い切った手段がなかなか魅せます。
「見えないロープ」
あらすじの作品。犯人の動機などの面を完全に排して、純粋にどうやってそれを行ったかを追求したもの。そのやり方については感心するしかないものの、どちらかというと船一筋で生きてきた男達のドラマが良かった。
「謎々」
戦後すぐの頃に一人の男によって隠された一振りの刀。それを彼が残した謎かけの文章を紐解いて探していくお話。痛い目を見て謎解きからは撤退したように見えた弓が実は意地をはっているだけで、ずっと考え続けた挙句に金星を挙げている姿が可笑しい。
「マーキング」
海上で灯浮標にぶつかったことで、塗料をつけてしまった船に接触されそうになる。その船は不審な航路をたどっていて…。それまでの行動全てが計算に基づいていたことが分かるラストに吃驚。乗客として乗っていた、海で死んだ子供の供養に来ていた頑固な母と小心者の息子の親子とのやり取りがいい味を出しています。
「コウゾウ磯」
砂浜で座礁していた船を助けようとする寺田。しかし、実はそこで座礁していたのには理由があって…。
何といっても後半の無理心中させられそうになっていた女性を助けて、後から追いすがって体当たりを敢行してくる男から逃げるシーンが熱い。
「灘」
家族の下から失踪してこのあたりにいる男を捜しに来た女探偵を乗せることになった寺田。助手の弓ももうすぐこの仕事を辞めることになった。探偵が探している男の姿を、寺田とダブらせてその心の一端を明かしているのがいかにもトリの作品らしいなと言う感じ。また、それまで寺田の視点でみているので、あまり踏み込まれなかった弓についても本人の話という形で描写されているのが印象的でした。あっさりした終わり方がらしくて、ピリオドを打つのにふさわしい作品だと思います。

好きな作品は、部屋の瀬戸、コウゾウ磯あたり。いっそのこと全部でもいいんですが。
一押しされてる初期の陰謀ものを次は是非復刊してください。読んでみたい。