皇帝ペンギンが翔んだ空

皇帝ペンギンが翔んだ空 (電撃文庫)

皇帝ペンギンが翔んだ空 (電撃文庫)

孤児院で育った元不良少女リーゼロッテは、純白の古城『白鳥城』で管理人として働いている。孤児院の子供達の目標となるため奮闘するリーゼロッテ。彼女を見守るのは、心優しい街の人々と、白鳥城に住む陽気な幽霊達だった―。そんなある日、リーゼロッテの前に孤児院で姉妹同然に育った少女ヨハンナが現れる。彼女はどうやらトラブルに巻き込まれているようで―。「アタシはアタシが行きたいトコに行けるようになれると思う?」「行こうと思や、どこにだって行けんだぜ」健気な元不良少女と世話好きな街の人々、そして愛すべき幽霊達が繰り広げるハートウォーミング・ストーリー。


祭紀さんの新作。まじめに働くリーゼロッテの元に姉と慕っていたヨハンナが現れるものの、彼女はリーゼロッテになぜか冷たい態度を見せるとともに、トラブルをも持ち込んでくるというもの。
元々電撃hpで連載されていた同じタイトルの作品とリンクしているものの、別の作品が上梓されているので、連載時の評判が割と良かったというのをみていたのでそちらを期待していたら肩すかしでした。ただ、舞台設定が少々省かれていて、連載も読みたくさせるという点ではやられたといっていいのかも。ポーの話らしいですが、あとがきでその辺をフォローしている紹介文を見るととても面白そうです。
ということで、作品としてはこの二人を中心としながらも彼女たちを取り巻く人たちの姿を描いた、文字通りハートウォーミングなものです。ストーリーはヨハンナが持ち込んでくるごたごたによって段々と殺伐としてくるかと思ったものの、城のちょっととぼけた幽霊や、城の中で暗躍している怪人少女のポーなんかがいい味を出していてほどよく中和されています。うーん、そして日頃は厳しいながらも、人をよく見ていてさりげない優しさを見せるマルガレーテのお婆さんのキャラクターがかっこよくて最高。彼女とリーゼロッテのやりとりがとてもいいんですよ。無論、無骨な部分も感じさせながら、たびたび起こるアクシデントにもめげない、主人公・リーゼロッテの前向きな姿も心地よく感じられます。説明不足に起因するのか、唐突な展開にもうちょっとかなあと感じる部分もあるものの、心が暖かくなるお話でした。
それにしても最後の姉妹の和解のシーンが見たかった。姉に対しての心配が念頭にあってのことだから、その心を考えると憎めないどころかいいやつではあるのですが、素直になれない少女が、日頃のように素直になったシーンが見たかったです。全てを一人で抱え込んでしまって、悪ガキのような行動をしてつれない態度を姉にとっていた彼女の真意が分かるところだけでも、ほんとに素晴らしいと思いますが。しかし、これ一編で終わるのは本当に勿体ない。せめてhpに連載していたやつの文庫化を…。