無法地帯―幻の?を捜せ!

無法地帯―幻の?を捜せ! (双葉文庫)

無法地帯―幻の?を捜せ! (双葉文庫)

空前の「食玩」ブームにより、400万円のプレミアがついたレアグッズをめぐる争奪戦が勃発。怪獣大好きのヤクザ、食玩コレクターの私立探偵、モラルゼロのオタク青年──。幻の?を奪い合う、仁義なき戦い。勝者は誰だ!


大倉さんの文庫落ち。怪獣の人形が好きなヤクザ崩れ、食玩のコレクションに多大なお金を費やしている私立探偵、彼らはそれぞれ高額のプレミアのついた怪獣ザリガニラーを探す依頼を受ける。期限は3日。そしてそれに先回りして罠をかけて、横取りしようとする、違法なことも平気でやるオタク青年。そういったオタク達の物語です。
無法地帯というだけあって、オタク達の世界だけれども、いやだからこそ逆に手荒なことも平気でやってしまう。主役のヤクザの大葉と探偵の宇田川も善人というわけではなく、手が早くて趣味のものを手に入れるのに法に触れるような手段も使います。それでもどことなく憎めない。
オタクというくくりで一般化するのは失礼なことかもしれませんが、かれらの行動の大本にはオタクの収集欲や嫉妬心が絡んでいるので、心情を完全にわからなくとも理解はできる気がします。自分の仕事を遂行しつつも、その途上でお宝といえるものに出会ったときには、私情丸出しでそちらを躊躇せずに優先する姿には笑ってしまいましたが。
そして、彼らはものにつられて簡単に動いてしまうけれども、肝心要のところでは同じコレクターとしての仲間意識を持っていて、彼らなりのモラルもある。たとえ一般常識とそれが外れていようとも。対峙するのがアウトローな方々が多いので、この物語を読んでいると共闘を始める彼らのその仲間意識のところが段々と爽やかに見えてきます。
ザリガニラーを巡る攻防、及び彼らが周りで巻き起こした自業自得ともいえる騒動は終盤までもつれます。アクションシーンが多いサスペンスというにはおかしみも多分に含まれている、愉快で物騒な大騒ぎ。無論、それだけではなくどんでん返しのような謎の要素ももきちんと含まれています。最初は各人の独善的な部分が鼻についたんですが、最後には爽やかさに変わって存分に楽しめました。
食玩や怪獣のコレクションに関する知識があればもっと楽しめたのではないかという点だけが勿体なかったです。実際のアイテムをモデルにして書かれているらしいので。こういったアイテムに対する作者の愛を感じさせられる一冊です。