ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ !

ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ ! (講談社ノベルス)

ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ ! (講談社ノベルス)

新聞に連載小説を発表している私のもとに1通の手紙が届く。その手紙には、ミステリー界最後の不可能トリックを用いた<意外な犯人>モノの小説案を高値で買ってくれと書かれていた。差出人が「命と引き換えにしても惜しくない」と切実に訴える、究極のトリックとは?


ネタバレあり。メフィスト賞受賞作です。
世の中にミステリは数あれど、読者を犯人であると告発したミステリはなかなかありません。そんな中、タイトルにあなたが犯人であると銘打ってまで世に送り出された作品です。
結論から言うと、正直名前負けしているかなと言う印象でした。アイディアとしてはとても意欲的な作品ですが、まず、被害者の死因がこの作品ならではの特殊性が高く(可能性を示唆するのではなく実際的なアプローチを行うのに必要だったわけですが)、その上そのことがほとんど読者に対して提示されていないというものなので、読者に読後犯人であると思わせるのは難しいということです。これについては作中でトリックを完成させることの難しさを強調しすぎて、自らハードルをあげていった面も否めません。特に、後半のトリックの解説はいかに気を配って作品が書かれていたかを強調したいのは分かりますが、少々冗長だったと思います。
また作中で想定されている読者とは連載されている新聞の読者で、ノベルスを読んでいる読者の立場から見ると作中の登場人物のあなたとなってしまうのはやっぱり肩すかしを受けたという印象でした。
気になったのは、作中では逃亡している香坂誠一の手記とわたしこと作家の日常側(超能力の研究所の見学などに行っている)が具体的な部分であまりかぶってこなかったこと。日常側での、超能力をどのように研究している人は位置づけているのかということや、それに関する蘊蓄や、テレパシーが使えるという双子の美少女姉妹のいかさまのトリックを見破るお話など魅力的なネタが転がっているものの、あまり本筋と絡まない気がします。超能力のくくりで被害者の体質を説明させているとしたら正直納得いかないし…。まあ、自分が読み落としているだけかも知れませんが。


総合的には、今まで誰もなしえなかったトリックが見られるという風に期待値を上げすぎなければ、文章もきちんとしているし、驚きも織り込まれていて楽しめる作品だと思います。個人的には超能力を使えると見せかけたイカサマの手口には本当に驚きました。それだけで短編のネタとして十分使えるような気もします。