退出ゲーム

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読もうと思ったまま積み上げてた荷物の中から何とか引っ張り出せました。
初野さんの作品は「漆黒の王子」以外読んでいますが、これが一番のヒット作なの…かな?トリックの見せ方、物語の展開とも非常に面白い作品でした。

これまでに読んだ初野さんの作品と比較すると、言い方に語弊があるかもしれませんが、まっとうな青春ミステリです。他の作品では「水の時計」における脳死状態で意思疎通が図れる患者や、「1/2の騎士」の幽霊の少年等々どこかしらに非現実的な部分を含んだ要素が一つの味でもあり、物語の根幹に関わる大きな要素でもあったのですが、この作品ではその点が全く見られないことが逆に驚きでした。あまりにも普通すぎて。ただ、いきなりどどんと設定を持ってこられて、その上でロジックを組み立てられるよりは、読者に対して敷居が低くなっているのかなとも感じました。他の作品に比べると、青春ミステリと相まって取っつきやすい一冊といえるかもしれません。自分はどちらも好きですが。

さて、作品としてはある高校を舞台として、吹奏楽部の活発な少女と幼なじみの美少年のコンビが日常の謎を解いていく短編集で、それぞれの物語が独立した形になっています。小手調べの1本目の結晶泥棒は化学部での盗難騒ぎの真相を追うオーソドックスなもの。2本目クロスキューブではその死に罪悪感を抱く少女の死んだ弟の、残したパズルに秘められた謎をどういう形で見せるかという点が見物。3本目の表題作では一転、二チームに分かれて、外には外出したくない限定された状況という設定の上で、設定を付け加えつつ、相手チームの人間をいかに外に出すかという論理ゲームの応酬。そしてラストのエレファンツ・ブレスでは、少女の死に瀕した祖父が行方不明の時期に何をしていたのかを歴史を踏まえて解き明かす物語で、隠された設定が明らかになるごとに変わる祖父のイメージが印象的です。
日常の謎というと、小さな謎に対して論理的な謎解きを提示するというものを思い起こされると思いますが、それぞれの短編が毛色が違っていて、色々な楽しませ方をさせるつくりになっています。特に舞台設定を変えて、それまでの物語の印象を一変させてしまう手法は非常に魅せられました。
また、謎を解くことでその背景に隠されたメッセージ、物語を解き明かすので、物語が非常にきれいに纏まっているのも特徴的で、重たい過去を含んだ物語も、すっきりした後味に仕上がっていると感じました。ひとえに、登場人物の軽妙さもその一助になっていると思います。
個々の作品としてはどれも粒ぞろいなのですが、舞台上で演技しているうちにお互いのやりとりの中で設定が二転三転して、途中ではどう絡むのか分からなかった着地点に辿り着くストーリーの見せ方の巧さで表題作を推し。また、少女の家という舞台設定があって初めて成立する非常に綺麗なパズルと謎解き、読後の余韻を含めてクロスキューブが特に好みでした。

主人公周りの人が物語の根幹に絡むということはなかったし、続くことを示唆するような終わり方でしたので、続編にも期待したいと思います。