イン・ザ・プール

イン・ザ・プール (文春文庫)

イン・ザ・プール (文春文庫)

著:奥田英朗 イラスト: レーベル:文春文庫
「いらっしゃーい」。伊良部総合病院地下にある神経科を訪ねた患者たちは、甲高い声に迎えられる。色白で太ったその精神科医の名は伊良部一郎。そしてそこで待ち受ける前代未聞の体験。プール依存症、陰茎強直症、被害妄想癖…訪れる人々も変だが、治療する医者のほうがもっと変。こいつは利口か、馬鹿か?名医か、ヤブ医者か。

直木賞受賞作の前作。どこまでが大まじめで、治療なのかがさっぱり分かんないマザコンで注射フェチの医者・伊良部と患者の話です。その病気を治すためにとられる療治は結果的に見ると比較的普通のものなんだけど、そこにいたる経緯が凄い。
伊良部がどこまで本気でやっているのかが全然分からない。悪い方向に天真爛漫(という言葉を大の大人に使うのは変なんですが)に患者とつきあって行く間に患者の治療となっている、あのキャラクター一人だけで充分この作品全体がもっている感じがします。
軽く読ませる作品の構成も上手いと思いますが、あのキャラクターをひねり出した発想力に完敗でした。下の話題が少し多めですが、ユーモアで癒しを与えてくれる作品が好きな方に。
症状のため、話が悲哀になりきれない陰茎剛直症の話も良かったんですが、全体の中では強迫神経症ルポライターの話が好きです。
自分の中での奥田さんのイメージが「最悪」や「邪魔」だったんで、かなり新鮮に読めました。