夏期限定トロピカルパフェ事件

夏期限定トロピカルパフェ事件 (創元推理文庫)

夏期限定トロピカルパフェ事件 (創元推理文庫)

著:米澤穂信 イラスト:片山若子 レーベル:創元推理文庫
小市民たるもの、日々を平穏に過ごす生活態度を獲得せんと希求し、それを妨げる事々に対しては断固として回避の立場を取るべし。賢しらに名探偵を気取るなどもってのほか。諦念と儀礼的無関心を心の中で育んで、そしていつか掴むんだ、あの小市民の星を! そんな高校2年生・小鳩君の、この夏の運命を左右するのは〈小佐内スイーツセレクション・夏〉!?
 

春期に続く2作目。
ミステリーズに載った短編を含んだ長篇的構成の短編集です。中に含んだ短編の方は先に読んでいたのですが、それらの短編の裏に潜む話が、違和感なく長篇としてつなぎ合わされているのは素晴らしいと思います。
「犬はどこだ」で見せた一面が姿を見せていますが、作品の風味は損なわれていませんでした。何かが起きたとき、小佐内さんがただ指をくわえて見ている人でないのは分かっていましたが、それも逆手にとったどんでん返しも上手くはまっていました。前作はキャラクター色が強かったのですが、今作はミステリとしても満足。
短編としては食べてしまったケーキの痕跡を小佐内さんから小鳩君が隠し、それについての二人の駆け引きが魅せてくれる「シャルロットだけはぼくのもの」が一番良かったかな。
キャラクターとしても小佐内さんが絶品。彼女の序盤の思わせぶりな態度から、終盤の謎解きの時の凄みのある顔つきまで、様々な姿を見せていたのがもう魅力的で。シェイク・ハーフで、謎を解きたくてうずうずしていた小鳩君も笑わされました。二人の掛け合いには互恵関係以上の結びつきがあると信じています。一歩引いた立場から、小鳩君は踏み出せるのか。
こういう止めみたいな引きをされると先が気になります。早く次をください、早く!