天夢航海

天夢航海 (ソノラマ文庫 (826))

天夢航海 (ソノラマ文庫 (826))

著:谷山由紀 イラスト:弘司 レーベル:ソノラマ文庫
両親の離婚で都会から地方の女子校に転入したあさみは、どうしてもクラスになじむことができなかった。そんな時、彼女は『天夢界紀行』という作品に出会い、その作品世界に強く惹かれていく。それは、どこか別の星にあるパラダイス―天夢界からの迎えの船を、望郷の思いに身を焦がしながらこの地上で待つ天夢界人たちの物語。自分にも迎えの船が来ることを願うあさみは、ある日、本当に天夢界行きの船のチケット手に入れてしまった!?天夢界に憧れる少女たちを描いた、連作短編集。


この世界が自分のいるべき場所とは思えない女の子達が天夢界へ向かう船の話と出会い、織りなす連作短編。
中高時代の女の子の繊細な感情の揺れ動きが、現実世界から旅立ち天夢界へ行く船に仮託してよく表わされていると思います。
夢の世界を願う様々な少女達が、現実の世界への回帰するまでの様を表わした筆致が丁寧で、思うようにはいかない現実と対峙するその姿に共感する部分もありました。現実の生活に埋没してしまわずに、夢を持ちながら生きるというまとめ方がこううまく切り出されているのは凄い。
基本的にこの世界に残る人の立場から描かれた作品なんで、作中作のように天夢界紀行の中でちょろっと出てくる、旅立った人の話も読んで見たいなあ。読後に不思議な後味が残る作品です。