文学少女と死にたがりの道化

天野遠子・高3、文芸部部長。自称“文学少女”。彼女は、実は物語を食べる妖怪だ。水を飲みパンを食べる代わりに、本のページを引きちぎってむしゃむしゃ食べる。でもいちばんの好物は、肉筆で書かれた物語で、彼女の後輩・井上心葉は、彼女に振り回され、「おやつ」を書かされる毎日を送っていた。そんなある日、文芸部に持ち込まれた恋の相談は、単なる恋文の代筆のはずだったが…。ふたりの前に紡ぎ出されたのは、人間の心が分からない、孤独な“お化け”の嘆きと絶望の物語だった―。


野村さんの新作。コメディタッチの作品しか読んだことがなかったんで、シリアスが入ったこの作風には驚きでした。
文芸部の二人が女の子から恋文の依頼を受けて、主人公が代筆をしていくうちに、その相手が存在しないということが分かり・・・というお話。
文章を食べる先輩と元天才美少女?作家の後輩のコンビのやりとりが面白くてクスリと。この二人のキャラクターがかなり印象に残りました。
ストーリーは太宰治の「人間失格」を筋に絡めたもので、既に死んでいる片岡愁二の物語と現在が人間失格を通してシンクロする感じがします。引用された部分から、犯した過ちの痛みが、人と同じように思うことが出来ない哀しみが入り交じり、誰の思いか分からなくなるような感じを受けました。一人の感情だけでなく何人もの感情が二重三重に重ねられている部分が上手い。物語の展開にも上手く働いたんじゃないかと思います。

そしてラストの先輩のセリフも中々しびれる。あのセリフは作者の太宰に対する愛情が良く表われていると思います。次はどんな作品が俎上にのぼるのか、楽しみなところ。
描写が色々あっただけに、琴吹が放置なのはちょっと拍子抜け。続編前提だからなんでしょうが。
イラストの方もいい仕事をされていたと思います。