名探偵に薔薇を

名探偵に薔薇を (創元推理文庫)

名探偵に薔薇を (創元推理文庫)

怪文書『メルヘン小人地獄』がマスコミ各社に届いた。その創作童話ではハンナ、ニコラス、フローラが順々に殺される。やがて、メルヘンをなぞったように血祭りにあげられた死体が発見され、現場には「ハンナはつるそう」の文字が……。不敵な犯人に立ち向かう、名探偵の推理は如何に?


二部構成になっているこの作品。一部では事件に関連する一人の立場から小人地獄という毒薬にまつわる事件を、二部では探偵役を務める瀬川みゆきの視点から、その二年後に同じ家で起きた「毒杯パズル」という殺人事件について描かれています。作品の雰囲気が少し昔風で、初っぱなに陰惨な童話が出てくるのもあっておどろおどろしい印象。謎としては誰が犯行を行うことが出来たかが主題になっています。
一話目の方では探偵役である瀬川はちょこっとしか出ず、謎を解く人としての役割しか割り振られていません。これはいわばプロローグなわけですが。
それが二話目で、真実のみを正義とし、孤独に探偵に役割を全うする瀬川の過去とトラウマが語られ、一話目の心情が語られない探偵部分においてどんな気持ちだったんだろうと考えてしまいました。悩み苦しみをずっと引きずり続ける彼女をそのポリシー故に、どん底に突き落とす様に用意された結末はあまりにもむごい。
(特に二話目において)事件の構図が次々に姿を変えていくのは、本当に上手く作られていると思います。それだけにどう転んでもダメージが来る中であの結末とは。読後かなり沈んでしまいました。この作品は瀬川みゆきの為に用意されたといっても過言では無いかも知れません。