月の盾

月の盾 (電撃文庫)

月の盾 (電撃文庫)

妹の小夜子が事故でこの世を去った八月十五日は、アブラゼミがうるさく、怖いくらいに日没が赤い、まるで世界が焼かれていくような夕方だった。そして、五年後の小夜子の命日。同じように夕陽で赤い空を、雲がせわしなく流れていく。周囲がアブラゼミの鳴き声に包まれる。なにか、予感めいたものがあった。驚くほど暗く、常にざわざわと不穏な音を奏でる森の中、上りかけた月の光が優しく降り注ぐその下に、小柄で美しい少女は座っていた。「―あなたは…だれなの?」少女の声質は小夜子と似ていた―。日没になると必ず眠る少女国崎桜花は、決して小夜子の代わりではなくて―。


岩田さんの新作。デビュー作のアイリスに比べるとシリアス風味の作品として格段に上手い作品でした。
母親が自殺してしまった少女が、それまで禁じられていた絵を描くことによって成長していく物語。主人公や友人達との交流を通して段々と閉じていた心が開かれようとしているのが、逆に絵のことによってたたき潰されていくのがとても悲しい。そして、その姿を脇から見ていることしか出来ない主人公の無力感が、輪を掛けて辛く感じられます。
その中で、なまじ画家として有名になってしまった為に、父親が天才画家で猟奇殺人者ということで世間に虐げられる桜花を支えようとする皆の姿はぐっと来るものがあります。主人公と家族になるために、養子になりたくないという桜花の言葉も良かった。
ただ、ラストがそれまでに比べると今ひとつ盛り上がりに欠けるのが、分かりやすい展開を補う力があるはずなのに、もったいないなあという感じもしますねえ。
ちょっと浮世離れしているとは思いますが、文章で表現される「月の盾」の絵を始め綺麗なお話でした。このあらすじだけじゃどんな話なのか分かりませんが。