聖遺の天使

聖遺の天使 (双葉文庫)

聖遺の天使 (双葉文庫)

ルネッサンス期のイタリア。ある館の主人が壁に磔の格好で謎の死をとげた。その館には聖母子像を映し出すという奇跡の香炉という聖遺物があると言われていた。主人の死と何か関わりがあるのか。謎を解くべくやってきたのはレオナルド・ダ・ヴィンチだった…。


2003年に出た作品が文庫おちしました。
ミラノの支配者イル・モーロの元で芸術家として暮らしているレオナルド・ダ・ヴィンチが、聖母子像を映すという香炉の謎と、館の主であるアッラマーニがまるで磔刑に処されたかのように嵐の夜に壁に張り付いて死んでいた謎に挑戦することになります。
現代人である自分には奇跡を起こすという香炉が眉唾ものに見えるのが、この当時の人々はもしかしたら奇跡を起こすかも知れない聖遺物で、それによって主は殺された可能性を考慮に入れているのが不思議で面白かった。それなのに、探偵がそのことについてあまり顧みていないのは、この時代の人としては妙ですが、超然としたその性格をみると納得してしまうのが何とも不思議。思わせぶりで、天才型の探偵でありイヤミなキャラクターである彼ですが、芸術や科学について向いている先は凄いと感じました。推理の方にはあまり影響はなかったみたいですが。ただそれだけに、当時の人物として対比されるべきワトソン役のイル・モーロやチュチリアも、聖遺物に固執する司教の態度や宗教に対してなど、かなり今風で現実的な思考をしているのが、浮いていると感じる部分はあります。世界史は門外漢なので、どの程度がふさわしいというべきかはあまり分かりませんが。
香炉の謎については、(疑ってかかっているこちらとしては)ある程度見当がつくものの、どうやって館の主が死んだのか、アッラマーニがどのような意図でもってこの館を作ったのか分かったときにはかなりびっくりしました。館というものへの発想の転換が面白かったです。舞台の設定が現実の歴史とあまり乖離していなかった(ように見える)のもお見事。