ロミオとロミオは永遠に

ロミオとロミオは永遠に〈上〉 (ハヤカワ文庫JA)

ロミオとロミオは永遠に〈上〉 (ハヤカワ文庫JA)

ロミオとロミオは永遠に〈下〉 (ハヤカワ文庫JA)

ロミオとロミオは永遠に〈下〉 (ハヤカワ文庫JA)

日本人だけが地球に居残り、膨大な化学物質や産業廃棄物の処理に従事する近未来。エリートへの道は唯一、「大東京学園」の卒業総代になることであった。しかし、苛酷な入学試験レースをくぐりぬけたアキラとシゲルを待ち受けていたのは、前世紀サブカルチャーの歪んだ遺物と、閉ざされた未来への絶望が支配するキャンパスだった。やがて最下級の「新宿」クラスと接触したアキラは、学園の驚くべき秘密を目にするが…。
「大東京学園」の存在意義に疑問を感じはじめたアキラは、何者かの計略により「新宿」クラスへと降格になってしまう。そこでは、リーダーのシマバラはじめ13人の生徒たちが、学園からの脱走計画に命を燃やしていた。一方、肉親の死に絶望し、20世紀への思慕を募らせるシゲル。それぞれの想いが交錯するなか、学園最大のイベント「大東京オリンピック」の開催日にして、“脱走の特異日”である10月10日が迫っていた―。


近未来SF作品。地球はほぼ破滅に瀕していて、外国人は新たな星に移住をすませ、日本人だけが貧乏籤で地球で産廃処理をするという設定です。お話としてはコメディでもなし、途中まではそこまでシリアスでもナシ、何とも表現しにくい作品なのですが。
作品中では章題を始めとして現代のネタが様々なところで使われているのですが、今ではゴミ集積所になっているというディズミーランドのくだりは爆笑。ただ、このあたりの物事に現代のネタをちょこちょこ取り入れているのは、解説が付いているのはありがたいけれども、ちょっと過剰だったかなという気がしないでもないですが、東京全体の地名が学園のあちこちの名前としてついている(その場所にあるのかも知れませんが)あたりは東京の地形を思い返して、楽しめました。
地味で退屈な学生生活をおくりながらも、アングラでは上の世界で否定されているサブカルを中心として、学生だけでなく職員を含めて熱気が広がっているあたりや、その中で学園からの脱出をたくらんでいるあたりは何とも言えないわくわく感がありました。伝統芸能を除いて現代の文化が退廃的だとしてほとんど禁止されている為に、様々なものが全く違うかたちで認識されているあたりも面白かった。
そして、表面上は明るいんだけれども、歪んでいて狂気に彩られている世界。それはタダノという一人の男に集約されるんだけれど、それを認めている世界そのものも気持ち悪くなってきます。話は全然違うんだけど、前に読んだクイズによる全体主義の世界を描いた「国民クイズ」なる漫画を思わせる感じでした。それに対して、脱走というやり方でシステムそのものに対する抵抗を行おうという少年達の姿は素直に応援したくなる熱さでした。
ラストはびっくりというか、ちょっとこれはなあという終り方だったんですけど、脱走に成功するとなるという「成仏」というキーワードの謎と掛けているあたり彼らは亡霊みたいなものなのかなと感じさせられました。ハッピーエンドのつもりで書いたはずが、読み返すとそうは思えなくなってきたという作者の後書きには同感。