アリス―Alice in the right hemisphere

アリス―Alice in the right hemisphere (角川ホラー文庫)

アリス―Alice in the right hemisphere (角川ホラー文庫)

九五年八月、東晃大学医学部の研究棟、通称「瞭命館」で六〇名を超す人間が同時に意識障害を起こす惨事が起こった。しかし、懸命の調査にもかかわらず、事故原因は掴めないままとなった。それから七年―。国立脳科学研究センターに核シェルター級の厳重警戒施設が建造されていた。そこは比室アリスという少女を監視・隔離するためのものだった。世界を簡単に崩壊させる彼女のサヴァン能力とは一体!?前人未到のスケールで、最先端の脳科学の未来を紐解いた傑作長編。


物語の序盤は大勢の人間が文字通り再起不能になった暸命館パニックという事件の原因が、「比室アリス」という少女にしぼられていくところから始まります。その事件から7年後の今、彼女が目覚めてどんな災厄を招かれるのかというあたりの展開は何とも背筋を寒くさせます。
新たな事件による被害の拡大とともに、関係者の間で、どうやって左半球しか脳のないサヴァン少女によってこの事態が起こってしまうのかということを、発見し、あるいはなぞり直していく展開はある種ミステリ的であります。
サヴァンという存在や、人間の脳の働きやフラクタル次元の話が後半部においては主役を務めるためにホラーというイメージは薄め。瀬名秀明の様な理系ミステリに近い感じがします。
9.7次元という高次元からみてみれば、人間が今存在している1次元という世界は人による共通認識の夢みたいな存在で、作り上げている認識は簡単に吹き飛んでしまうという考え方がとても面白かった。それ故に高次元においては個人の認識を失わせてしまって、戻ってこれないというあたりは何とも恐ろしい。成長途上の子供の脳だけがそれに対応できるというのも興味深かったです。
こういうのを読むと、自分の知識のなさを痛感してしまいますが、かなり読みやすいように作られていたので、比較的すんなりと作品世界に入り込むことができたのも良かった。
事件から立ち戻ろうとしている清々しいラストシーンは好き。人間の生命力を感じさせてくれます。