月光とアムネジア

月光とアムネジア (ハヤカワ文庫JA)

60年間、誰にも姿を見られることなく殺しを続けてきた伝説の殺人者、町田月光夜が“レーテ”に入った。“レーテ”とは、入りこんだ者の記憶を三時間ごとにリセットし、重篤な認知障害を引き起こす特殊空間が、直径数キロ以上にわたって出現する現象なのだ。月光夜を追って“レーテ”に進入した捜査部隊は、謎の少女をはじめ次々と奇怪な現象に遭遇する!余人の追随を許さぬ、牧野修の、複雑怪奇ミステリアス幻想長篇。

牧野さんの新作。記憶がリセットされる空間に入り込んだ特殊部隊が様々な出来事に遭遇するお話。
物語の舞台はアガダ原中県境という日本に近いように見えて良く分からない、オリジナルのものが出てくる世界です。この舞台設定には、やっぱり幻想的な世界を作るのは上手いなあと感じました。この独特の世界は何とも言えない魅力があります。
3 時間ごとに記憶が撹拌されて失われていくため、その間に解明されたはずの事態が、なかったことになってしまうのがおもしろい。リセット中にメンバーが死んでしまって記憶を留めておく機械が壊されたり、狽(バイ)という大きなカタツムリに襲われたりと二転三転する状況の中で、とある月光夜の特性と、前にレーテによって記憶を飛ばされていた主人公にわき上がってくる過去の因縁が、カオスのようになっている物語にどんな影響を及ぼすのかが全く読めません。最初は全く分かっていなかった月光夜の力にあたりを付けていくあたりはミステリの謎ときの様な魅力もありました。
最後の方のレーテの原因については、論理の跳躍について分かりにくさと強引さは感じるものの、世界をひっくり返すようなこの論理展開は驚愕。
そして、ハッピーエンドと呼んでいいのか分からないような、何とも座りの悪いラストの処理は流石牧野といった感じでした。こうなると自己同一性が喪失されたようになるんでしょうね。