ゴールドベルグ変奏曲

ゴールドベルグ変奏曲 (HJ文庫)

ゴールドベルグ変奏曲 (HJ文庫)

妙なる調べは視覚となり、紡がれた幻が現実と交錯した時、“幻奏”能力者オルガの物語は始まる。至高の奏者・文殊の死は、オルガを監察官・普賢と出会わせる。事件は二人の距離を近づけ、そして新たな事件は起こる。文殊殺害の真犯人は?ガヴローシュとは何者なのか?“幻奏”が織りなす謎は、やがて意外なる真相へと普賢を導いていく…。


五代さんがデビュー前に書いていた作品のお蔵出し。歌うことによって皆に幻を見せる力を持つオルガと、惑星を超えた事件捜査官である普賢が巡り会って起きるラブストーリー、と言い切ってもいいよね。
未来世界においての物語ということですが、作中で大きく扱われるファンタジーがかった幻奏の力の部分を除けば、細部にわたってSFを意識した小道具が用意されている気配りが細やか。至高の幻奏演奏者に対して仕掛けられた爆弾テロが、二人の出会いを作り、また新たな事件の契機を作るという展開は先が読めません。次々と事件が起こる展開はサスペンスのようであり、事件の中身まで幻奏が関わってくるようになるとファンタジーのような雰囲気も漂わせるようになるあたりは、説明不足を感じるところがあるなど荒削りの部分も散見されますが、作品に引き込む力を十二分に備えていると思います。事件にあわせて、普賢の家族問題や、警察内部の人間を絡めて普賢の変化を描いていったのも上手い。
何よりこの互いに惹かれ合う二人の甘い恋物語としても極上でした。一切の感情を覆っているという普賢の設定からしたら、なぜ突然オルガに惹かれるのかというのが不自然な感じはありましたが、攫われたり怪我を負ったりする中でも、全身全霊で相手を求める二人の姿はとても美しい。そして、冬眠状態で一度出会ったきりの相手を想い続けて、その思いに殉じて散っていった文殊の姿が果敢なく切ない作品でした。
しかし、デビュー前でこのレベルというのは凄いです。積んでるのいい加減読まないと。まずは骨牌の続きから…。