キサトア

キサトア

キサトア

少年アーチはふたごの妹と父親の4人家族。病気で色の識別ができないが、物づくりが得意。海辺の町に越してきて5年、家族は平和に暮していた。やがてアーチはコンクールに挑むことに…。風がはこんでくる、爽やかな物語。


小路さんの新作。あらすじにはあんなことしか書いてありませんが、実際には様々なできごとが起きていきます。タイトルの「キサトア」とはアーチの双子の妹、キサとトアのこと。彼女達もまた、キサは日の出から日の入りまで、トアは日の入りから日の出までしか起きていられないという病を抱えています。それに風を読む力を持った「プロフェッショナル」と呼ばれる父親の4人の家族が5年前に移り住んできた町で過ごす一年が作品となっています。
物語の舞台は、架空の世界、架空の町でありながらも、どこか懐かしさを覚えるような町。そのなかで、アーチを始めとする友達グループは様々な出来事にぶつかっていきます。その事件の一つ一つが、子供の世界にとっても、大人の世界にとっても大事件で、魅力的。土地の伝説の謎を解きにいくところなんかは、とても引きつけるものがあります。また、章として区切られている四季が、起承転結のように彼らを取り巻く物語にアクセントを与えているのが上手い。
途中で、よそ者に対してにじみ出る隔意がこの物語に影を落とすけれども、それは結末に至るまでのステップとして欠かせないものだと思います。
そして、物語全体にただようこの暖かさがたまらない。周囲の優しい大人達に見守られながら、まっすぐ思ったままに成長していく子供達の姿がとてもまぶしかったです。アーチとアミの間で育まれる幼い恋物語も微笑ましい。また作品を通して感じられる、この世に存在するものはすべて繋がっていて、分けることができないという考え方と、嫌みがない人間讃歌も心地よかったです。心を暖かくさせてくれるような、こんな物語も大好き。