二島縁起

二島縁起 (創元推理文庫)

五つの島々をまわって数人ずつ客を拾い、合計二十五人を輸送してほしい、但し目的地は全員が乗船するまで秘密―奇妙な依頼の目的は?潮見島と風見島、瀬戸内海に浮かぶ二つの島の対立に心ならずも巻き込まれた海上タクシー船長・寺田の前に、さらに不審死の謎が立ち塞がる。

古くから瀬戸内の海で栄え、お互いの対立が根深い二島を舞台として、海上タクシーの船長である寺田が探偵役を務める作品。
謎自体は二重三重に入り組んでいるという感じではなく比較的素直なものですが、なぜこのような輸送を行わされたのか、島に伝わるオタメシとは何か、そして不審死は誰が起こしてしまったのか等々、目先を変えるように出される数々の謎の出し方がとても新鮮。そして、それぞれの謎が事件の真相に向けて繋がっていくあたりは、とても丁寧な見せ方をしていると思います。
探偵役の寺田はふらっとここにやってきて、そのまま居着いてしまったという中年の男やもめ。そんな飄々としているけれども、長年連絡を取っていない子供から電話があれば動揺してしまったりするようにまだまだ枯れるまでには至っていない彼の内面描写も、きちんと描かれていて話に大きな彩りを添えています。弓や一江といった気っぷのいい女性陣の性格とは好対照ゆえに、その姿が浮き上がってくるのも面白い。
そして、物語の謎もさることながら、カーチェイスならぬシップチェイス(？)のシーンの描写がとても上手い。冒頭の潮見島の漁師を乗せて、風見島の船の妨害から逃れるシーンと終盤の犯人の追撃を受けてしまうシーンは手に汗握る展開でした。このあたりの真に迫ったような描写は、作者の綿密な取材の賜物なんだろうなと思います。
次の復刊も楽しみ。