天涯の砦

天涯の砦 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

天涯の砦 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

地球静止軌道上のステーションで起きた破滅的な大事故。虚空へと吹き飛ばされた一区画に、わずかに生き残った人々がいた。「天涯の砦」に隔離された者たちの、絶望的な真空との闘いが始まる―


小川さんの新作。自分達のまわりが宇宙空間という極限状況に放り出された人々の奮闘を描いています。形式が単純化されているので事故の原因も分かりやすくて、理解しやすい。
復活の地に相通ずるような救出作業の部分はこちらを引き込む迫力満点で、相変わらず上手い。冒頭で真空による死の恐怖を強烈に印象づけたうえで、これでもかという状況に追い込んで、そこからの脱出を描くことによるカタルシスが存分に味わうことができます。
物語のヒーロー役に位置づけられている望天の職員、二ノ瀬とそれをアシストすることになる長柄も弱さをかかえていて、肝心なところでその弱さを露呈してしまう姿も、このお話を盛り上げます。ほかの人物達もそれぞれがあまりにも人間くさい。皆がわがままな面があるし、第一に自分の思惑を抱えていてときにそれがとても鼻につきます。が、その争いや葛藤は人間ドラマとしての側面をとても強く打ち出していて、どうなってしまうのか先が読めないために、そちらもしっかりと読ませます。
個人的には、登場人物の利己的な面が強く、終盤の危機が連続して起こるような一致団結しかかっている部分においてもその点が強く印象づけられてしまうために、登場人物の一部に対してどうも好きになれなかったのが残念なところでした。日和らせるにせよ、悪人として突っ走らせるにせよ、根本に主観的な背景を求めてしまうのはダメかなあ。
まあ、上でなんだかんだ言ってますが、まさにページめくる手が止まらない作品であることは確かです。