終わる世界、終わらない夏休み 芹沢和也の終末

「世界は、あと四日で滅亡する―」計画都市・谷園で、いつものように教室に向かった高校生・芹沢和也は、「疎開」により、ついに唯一人になったクラスメイト、大舞都亜美から「世界を救う方法を一緒に探そう」と誘われる。荒廃した街ですることもなく、生きることに執着もない和也は、暇つぶしとして亜美に付き合うことにする…。喪われた日常が“繰り返される”世界で、生きる希望を探す少年と少女を描いた渾身の上下巻連続刊行。


新作。終末を迎えた世界とその最後の4日間を繰り返すタイムループの設定。どちらも結構手垢のついた設定だけにどう表現されるかが気になるところでした。
既視感は否めないものの、終末を迎えるとみせかけて、タイムループに移行するという設定の表現の仕方は工夫が凝らされています。また、閑散としてしまっている世界の雰囲気や小道具の活用も終末を表現する上で効果的だったと思います。
ただ、主人公が残したものだけが世界による影響を受けないことや、諦めがあるとしても登場するキャラクターたちがあまりにもあっさりしているのが気になります。主人公は厭世的なキャラクターだからまだしも。まあ、ヒロインの陽気な性格は、陰にこもった部分が反転して発露したものだから当然と言われればそうなんですけれど。色々と省かれているのでちょっと唐突という感はありますが、その、和也にいつもテンションが高いヒロインの真の姿と和也への想いが明らかになっていくところが良かったかな。
作者があとがきで某ゲームに似ていると指摘されたと書いていますが、(僕自身はやったことがありませんが)多分人に勧められたことがあるあの作品のことなんでしょう。
いずれにせよいまだ上巻なので、主題をどうもってくるのか、下巻のほうでこのタイムループ世界にどう説明をつけるかで評価が大きく変わる気がします。次は前向きになってきている和也が再登場するのか、それとも他の人の視点から物語は進行するんでしょうか。今月の新刊に期待。