ボトルネック

ボトルネック

ボトルネック

恋人を弔うため東尋坊に来ていた僕は、強い眩暈に襲われ、そのまま崖下へ落ちてしまった。―はずだった。ところが、気づけば見慣れた金沢の街中にいる。不可解な想いを胸に自宅へ戻ると、存在しないはずの「姉」に出迎えられた。どうやらここは、「僕の産まれなかった世界」らしい。


自分のほぼ唯一の通じ合えた人間だった人の弔いに東尋坊に出かけた僕が、自分の代わりに死産だったはずの姉がいる世界に飛ばされて「自分という存在がいなかった場合」どうなったのかを体験させられるお話。青春モノ。ミステリ要素は薄いけれども、彼女の死の謎など要所要所での活用の仕方は手堅い。
自分がいない世界に現れることになるというSFチックな設定の上に、僕の心は最初は別の世界に渡ったことに対しての戸惑いとここならあるいはというかすかな期待を、その後は後悔一色に塗りつぶされていきます。
姉とともにお互いの世界の間違い探しをする中で、自分でも出来たはずだった理想を眼前に提示されて、元々自分が抱いていた諦観を吹っ飛ばすほどの絶望を与えられる姿は正視に耐えない。特にタイトルのボトルネックの意味が分かったときの衝撃は大きかったです。姉のサキが陽気で無邪気、そのうえ頭が回るというキャラクターであるだけに、その発言には微塵の悪意もなくて、それがより心をえぐる結果になるのは本当に皮肉な感じでした。ここでこうすればあるいは、という実例を見せ付けられるのは本当に辛い。
西澤氏の黄金色の祈りを思い起こさせるという意見をネットで見ましたが、同感でした。そして選択を与えてくれと言った直後、最後の最後まで手を緩めないところに慄然。想像力というのが一つのキーになるんだろうなと感じた作品でした。
「犬はどこだ」ともまた違った米澤氏の新境地といった印象を受ける作品です。

サキの有り余る想像力を働かせれば、僕が間違い探しをすることでどんどん精神的に追い詰められるということは簡単に分かるんじゃないかなと思う。彼女はリョウの世界のノゾミの心理についてもある程度推測することが出来たのだから。そこが分からないというのは、この世界は平行世界ではなく、ノゾミが作り出した世界なのかもしれないと思います。それを考えると、最後のノゾミの呪いが何を求めていたのかが本当に分からない。