くじびき勇者さま一番札 誰が小娘よ!?

くじびき勇者さま 誰が小娘よ!? (HJ文庫)

くじびき勇者さま 誰が小娘よ!? (HJ文庫)

「くじびき」で運命を決めるという大陸最大の宗教「ソルティス教」の見習い修道女メイベルは、実はくじびきが大キライ。それでも好きな研究や魔法の訓練に明け暮れながら、それなりに平和な日常を送っていた。だが、同じ見習い修道女のパセラと買い物に出かけた街中で、くじ運最悪の剣士ナバル、軽薄な近衛隊長クラウとともに、異教徒によるテロ事件に巻き込まれて…。


清水さんの移籍第一作。くじ引きで職業ややることが決まってしまう社会を舞台にして、籤引きを毛嫌いしていて万能な修道女メイベルが翻弄されるお話。文化レベルとしては産業革命後の社会、文化の発展を追いかける人達とそれに反発する人たちの対立が宗教対立もからめて描かれています。そんな中、籤なんかに翻弄されずに自分の力で道を切り開くと決意して、実際それを実行に移しているものの、人生を決めるような肝心なところでは籤に巻き込まれてしまうメイベルが哀れでもあり、おかしくもあり。同じような境遇なのに正反対の考え方をするナバルとの対比が面白かったです。
お話のほうはソルティス教に反発する勢力からのテロが起きて、相手に理解されないテロの恐怖を描くなどシリアスながらも、清水さんの既刊のシリーズに相通ずるコメディちっくなノリのよさは相変わらず。また、薀蓄も理屈屋な主人公の口から出るようになっていますが、清水さんらしさは相変わらずでした。合わない人は合わないだろうけど、このノリの軽さは結構好み。ただ、重い話をさらっと書いていますが、この先の展開しだいでは気象精霊記あたりとは一線を画してお話になるかもしれません。テロで死者が出るほどの民間人攻撃があったし、何より登場するのがあんてぃ〜くの人達のように(たやすく死ぬ可能性のある)人間ですから。
ナバルとメイベルが勇者と従者として旅に出てしまうことで、メインの二人以外、特にどじなパセラやクラウがこの先登場しなくなるのが残念です。二人の旅が笑えるものになりそうなのは簡単に想像がつくんですが、脇の二人も一冊で出番が終わりというのももったいないなあ。そういえば、これまでの作品ではあまり見られなかったナバルとの「ほのかな」恋愛要素が見られるのも新鮮でした。是非ともこの部分はすすめていって欲しいです。