輝石の花

輝石の花 (富士見ファンタジア文庫)

輝石の花 (富士見ファンタジア文庫)

“輝石使い”を目指す少女ベルネージュ。田舎の村に暮らす彼女は、幼馴染みの少年カッサや村の人たちと穏やかな日々を過ごしていた。だがその平和な村を“黙”が突如襲う。“黙”―それはあらゆる“命のリズム”を奪う存在。そしてこの襲撃により、村は滅亡した…。さらに半年後、孤児院に身を寄せていたベルネージュとカッサを更なる不幸が襲う。カッサの身体に“黙化”の兆候が現れたのだ。このままではカッサは“黙”になってしまう…。「二人なら大丈夫。大丈夫だよ…」ありとあらゆる病を治すという雪月花の伝説にすべてを託し、二人は旅に出る。最後の絆を失わないために―。


富士見ファンタジア努力賞。
黙と呼ばれる怪物が跋扈し、人々を襲い、歌い手と守り手と呼ばれる力を持つ者達しかそれに対抗することが出来ない世界。黙にその身を侵されながらも幼馴染を守ろうと必死なカッサ、自分を守るためにそうなってしまった彼に出来るだけのことをしてあげようとするベルネージュ。そんな二人の初々しいふれ合いの描写がうまいと思います。幼い、相手を守りたいというだけの思いを貫き通そうとするする姿がいじらしい。特に、お互いしか頼ることが出来ないと思うがゆえに、必死でお互いに助け合って進む彼ら二人の旅姿が良かったので、途中から歌い手と守り手の二人が登場して大人側からの視点が入り、そちらの印象が強まるのは個人的にはちょっと残念なところでした。あくまで主役はこの二人であってほしかったので。全てが分かっていながら二人を見守る守り手と歌い手の二人の物語(特に腐れ縁だと守り手が呼んでいた過去について)は、また別の形で見てみたいと思わせる魅力は十分あったのですが。
第一章で村が襲われる部分、その後に孤児院でのシーン、そして雪月花を求めての旅立ちを一巻に詰め込んだというのもあり、基本の骨子はしっかりしているものの、詰めが甘くて話が飛び飛びかなーという印象を抱かせる部分があったのは少し気になるところですが、次の作品が楽しみな作家さんでした。
作品中ではエピローグがとても良かったです。二人のその後を想像するとニヤケてしまいます。