パラケルススの娘 5

19世紀末ロンドン。忙しく日々を送る遼太郎とクリスティーナの前にフランス語を話す少女剣士シャルロットがやってきた。『シオン聖騎士団の使者』を名乗る彼女は、クリスティーナに激しい憎悪をむき出しにしながら「『彼女』は必ず返してもらう。神のみ技を汚すのみならず、尊いその血を盗んで逃げた者には、必ず神の裁きがくだるでしょう」と言い放った。飄々と受け流すクリスティーナと、不安を覚える遼太郎。「〈聖なる血〉を奪いし魔術師に、われらが神の裁きを!」を合い言葉とする『シオン聖騎士団』とは何か!?


シリーズ5巻目。シオン聖騎士団が「聖杯」を取り返すためにやってくるというお話。
あとがきで新章突入といっていたとおり、新展開ということで遼太郎に変化が起きたり、伏せられた部分が明らかになってきました。お話としてはかなりシリアス。
多華女が倒れたということを一つの契機として、ただ役に立たないものとして守られるだけの存在ではなく、自分が今共にすごしている家族を強く意識して守りたいと思うようになってきた遼太郎。身近にレギーネしか置かずにいて、そんなことを考える彼に反発を覚えながらも、「家族」という言葉に微妙に影響を受けているクリスティーナの姿が印象的です。機械人形でありながら、彼女のことを彼女以上に分かっているようなレギーネも気になるところ。
自分の居場所の元となるお互いが信奉するものの争いは、一人の少女の恋心の残酷な終焉と共に幕を閉じるのですが、彼女の再登場はあるのかな。最初は相容れない存在という認識でしたが、その幸せそうな姿が見られただけにやっとの思いで手に入れた自分の居場所を失ってしまう姿は切なく痛ましい。
相変わらず女性のあしらいはへたっぴいでドタバタを巻き起こす遼太郎だけど、心の面でも力の部分でもびっくりするほど成長したという感じでした。男前です。
次は短編集だそうですが、過去の因縁の件とかあるので、続きが待ち遠しいなあ。