藤田先生のミステリアスな一年

藤田先生のミステリアスな一年

藤田先生のミステリアスな一年

小学生時代の皆の恩師、藤田先生が入院した。次々と病院に集まる同窓生は三十年前、小学校六年生の担任だった藤田先生が教育の一環として一年間の間に次々と「魔法」を見せてくれたのを思い起こす。そんな魔法は今でも皆の印象に強く残っている。そして、そのどれもが今に至るまでその「種」が誰にも分からないのだ。そして藤田先生はなぜ、自分たちの担任だったその一年だけ「魔法」を使って、後の生徒達にはそれを行わなかったのか。藤田先生自身にも謎があった。


優しい先生と素直な生徒達の一年と、再会した彼らを描いた物語。謎解きとしてはパズラーテイストで、先生が担任の間にやった「何もない野原にサンドイッチを出した」とか「トーテムポールの上で不幸の手紙を消失させた」といった謎を解きながら先生自身の謎に迫るという構成。
物語自体から徹底的に悪意が排斥されていて、皆が善意であるように描写されているのが受け入れられるかどうかで評価が分かれる感じがします。今でも先生の教育のおかげでクラスメイトの皆が丁寧語で喋って善意の塊であること、そして先生がこの教育をやめた謎が明らかになるくだりは、どうしても理想論(現実と乖離している)という印象を受けてしまって違和感が拭えませんでした。この悲しみを抱えた藤田先生のやさしい物語は、きっと作者の理想が投影された作品なんだろうなと思います。作中で描写されている教育にあたっての理念は、とても素晴らしいとは思うのですが。
謎の方は実際に実行しようとしたら難しいと思わせるものもありますが、魅力的なものでした。
そして、作中で彼らが過去を思い起こしている部分は、子供時代の郷愁を呼び起こすのに十分。自分が体験したわけでもないのにとても懐かしい印象を受けました。こんな魅力的な授業をやってくれる先生がいたらなあ、一生記憶に残りそうだ。