マルドゥック・ヴェロシティ〈1〉

マルドゥック・ヴェロシティ〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)

マルドゥック・ヴェロシティ〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)

戦地において友軍への誤爆という罪を犯した男―ディムズデイル=ボイルド。肉体改造のため軍研究所に収容された彼は、約束の地への墜落のビジョンに苛まれていた。そんなボイルドを救済したのは、知能を持つ万能兵器にして、無垢の良心たるネズミ・ウフコックだった。だが、やがて戦争は終結、彼らを“廃棄”するための部隊が研究所に迫っていた…


希望の章。
軍人として働いて、一度人生を投げ捨てさせられたメンバー達が、09プロジェクトに居場所を見つけプロフェッショナルとしての誇りを取り戻していきいきと動き始めるまでが、濃密に濃密に描かれています。
自分の存在意義に自信がもてなくてくよくよ悩むウフコックと、自分を支えてくれる彼を支えようとするボイルドの姿が傍目にも幸せそうで、このあとにやってくる終わりが予告されているだけにこの先の落差の味付けにしかならないのが、とても悲しい。まっさらな頭で読んだら、背景に皆が背負うものは重いけれど、この先はハッピーエンドと思ってしまうかも。
彼ら二人だけでなく、ほかの面々のミッションに当たってのチームプレイの姿もよかった。つかみのウフコック奪還作戦のところから結束の堅さが見て取れます。彼らの日常ともいえるスラングっぽい会話も雰囲気がでていて好み。そして、時折会話において姿を現す、今はこの世に存在しないオードリーのことや、彼らに道を与えることになるクリストファーを始めとする個性的な三博士のキャラクターも気になるところです。
文章の変遷についてはご本人がトークショーで模索の結果この形に落ち着いたとおっしゃってましたが、この文体は好み。=や/を多用した文章はスピード感がある反面読みづらいですが、一読でイメージがつかみやすいのでこの作品にあっていると思います。トークショーまでに1巻しか読めなかったのが残念。