ユーフォリ・テクニカ―王立技術院物語

真空からエネルギーを取り出し、水の裡に封じる。産業革命を推し進め、新世紀に繋がる最先端の技術、「水気」―十九世紀末叡理国、ネルは東洋人として初めて王立技術院応用水気技術学科に赴任してきた。だが、研究員の募集に応募してきたのは、情熱はあるが常識は蹴倒す破天荒な少女エルフェールのみ。しかも彼女は王女だというのだ。


定金さんの新作。近代のイギリスによく似た世界を舞台に、水気という架空のエネルギーを研究する空回り王女に穏やかな師匠のコンビが織りなす物語。
作品の帯にも「常識は蹴倒し、美徳は殴り捨てる暴走王女見参」と銘打ってあるのですが、本文を読んだときの衝撃はそれ以上。何をするにしても情熱的で、ねじが何本かぶっ飛んだような姿は凄い。ネルのもとへ弟子入り志願に彼女が行く際も、王宮の衛士を蹴り飛ばし、技術院の警備に額が割れるほど頭を殴られながらもこらえて乗り込んで、そのためには奴隷の扱いでも構いませんとまで言い切る始末。相手に抱きついて泣きじゃくったり、首を絞めて怒ったり、冷静になるために円周率を唱えだしたりと言と動のどちらも愉快です。
感情の振幅がとても激しく、怒った時には師匠相手でも実力行使に及ぶそんなエルフェールと、いつも穏やかでありながら彼女の姿を冷静に判断して、やりたいことができるように見守っている(気持ちはあまり読めない)ネルの組み合わせがいいなと思わせられます。徐々に人が集まって一つの研究室として出来上がっていくのも好みでした。女性ばっかり集まるんで、エルフェールはあまり気分が良くなさそうですが。
また、花火の分野で新しい物を作り出そうと人として(女として)の生活を半ば忘れたかのように研鑽を積み、研究に打ち込む彼女の姿に、研究の熱気を感じさせられました。水気のエネルギーを利用して作られる花火を、これまでにない発想の形を実現させて生成しようとするところでは、ディティールをそんなに詳しく描いている様に感じられないのですが、不屈不倒の彼女の姿があって物語にのめり込ませるには十分。
終盤の部分など、二、三いきなり物語が飛んでしまうために、盛り上がりに水を差されて戸惑ったところはありましたが、女性や東洋人であるということで為される妨害にも負けずに、新たな物を作り出そうとする熱血ストーリーに科学の風味が混ざり合って、とても心地よい物語に仕上がっています。続編期待。