あんでっど★ばにすた!

あんでっど★ばにすた! (電撃文庫)

あんでっど★ばにすた! (電撃文庫)

幼馴染みである荻原真尋と御船冬子は五法(ヴァニティ)という特殊な能力を行使する“五法相(ヴァニスタ)”と呼ばれる存在である。そんな彼らの元に、五法相の集団“諮問機関(カウンシル)”の使者、セフィラがやってくる。五法に関わる窃盗事件の捜査を依頼された真尋は、セフィラの熱意に押される形でそれを引き受けることになった。
 セフィラは事件の犯人が、五法によって造り出された不浄な存在“不存体(アンデッド)”であると強硬に主張する。そして捜査の過程で、彼らはひとりの少女に出会った。幼い外見と老練な物腰を併せ持つその少女、リシュエル・ウィキシントンは、ある重大な秘密を抱えていた……。


鈴木鈴さんの新シリーズ。
あらすじの通り、五法という力が存在する世界で、主人公もその力を行使することができるという設定…なんですがそれについてぼかした書かれ方をずっとされているもので、こちら側にはいまいちどういうものかピンとこない感じがします。キャラクター達の共通認識として描くのであれば、用語説明は小出しにする必要はなかったのではないかなと思うのですが。
五法相としての姿を隠しながら生きる穏やかな少年真尋と、その力を日常で存分に使用している乱暴な幼馴染み冬子の元に現れる、五法を使用した犯罪の捜査官セフィラの三人の関係。それと、アンデットを追う途中で遭遇するリシュエル達との問題が筋になるのですが、セフィラが真尋に抱く思いについてがあまりにも性急で(一目惚れというやつもあるのでしょうがこの場合は彼の容姿に惹かれたという感じではないので)、どうしても関係が深まる前に実力行使と相成ったという印象を抱いてしまうのが残念でした。もう少しじっくりと彼女の思いを描いてあげたら、彼女の過去の悲しみと今力をふるう代わりに払うことになった代償、そして迎えることになった切なくも優しい終わりについてももうちょっと何らかの感慨が抱けたと思います。
もう一人のヒロインの冬子が、セフィラの真尋への接近を知りながらも鈍い真尋のせいで素直になれない姿と八つ当たりされた彼女の執事さん達がそれに振り回されている姿はコミカルで面白かったので、今後は作品が終わっても秘密のベールを一枚脱いだだけといった印象だったリシュエルがらみのお話になるとは思うのですが、こちらの方の登場も減らさないで欲しいなあ。
しかし、後書きで死体のお話をして過去の悪夢を思い起こさせて、読者を減らしそうなネタ振りをするとは鈴木さんはチャレンジャーですな。