つばき、時跳び

つばき、時跳び

つばき、時跳び

幽霊伝説のある旧家「百椿庵」に住むことになった「私」は、ある日、屋敷の中に突然出現した不思議な少女に魅せられる。150年の「時の壁」を超える恋の行方は? 「黄泉がえり」の作者が放つ、究極のタイムトラベル・ロマンス。


日本人作家でタイムリープもののラブストーリーを多く書かれている方というと思い浮かぶのはやっぱり梶尾さんで、「クロノス・ジョウンターの伝説」や「未来のおもいで」あたりが出てくるのですが、今度は熊本を舞台として江戸末期の女性との間でのタイムリープのお話。
私が幽霊のような姿として見ていたつばきという女性が、館にあった不思議な装置をいじってみたら、現代に跳んできてしまいますが、彼女が現代の世界に対して見せる驚きの姿がとても可愛らしいです。屋敷の中のものに触れるときはもちろん、外の世界を見に出かけて車や電車に驚いたり、アイスクリームを喜んで食べたり、それでも自分のいた頃と変わらないものがあると知って安堵したりといった姿がとても魅力的。梶尾さんの作品に登場する女性キャラクターは清楚な描かれ方をされている人が多いのですが、つばきという女性はその中でも一級品だと思います。
そして本来出会うことのなかった違う時代の二人が、お互いの習慣に折り合いをつけながら同じ屋敷で一緒に暮らしている様がとても面白い。短いとはいえ日常を過ごす中でお互いのことを意識していくようになるうぶな姿が本当に可愛らしいです。それ故にそんな二人に別離が訪れるところでの喪失感や、再会したときや再びの別れを描いているところで、しんみりさせるのが上手い。
(つばき以外の)過去の人にりょじんさん(という時間旅行者が)接触したことによるタイムパラドックスの問題とかがあまり触れられていなかったのとかは気になったのですが、センチメンタルなお話だからいいのかな。ちょっと気になったのは、歴史は素人な自分でも感じる、言葉とか時代考証の点。主人公の設定が郷土を舞台にした歴史小説を書くつもりの作家であるだけに郷土史をよく知らないのには少々違和感を感じました。ただ、時代考証以外にも細かい粗はあれど、あの爽やかなラストにはかなわないです。ベタだけどやっぱり最後はこっちの方がいいなあ。センチメンタルなSFを多く書かれている梶尾さんらしいといえる一品です。