煌夜祭
- 作者: 多崎礼,山本ヤマト
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2006/07
- メディア: 新書
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評判がいいのは知っていましたが遅ればせながらということになってしまいました。こういうのを積みっぱなしにしておくと、読後にもっと早く読んでおけばって、後悔してしまいます。いえ、特にナニが減ったわけではないのですが…。
というわけで、素晴らしい作品でした。年に一度の夜、二人の語り部が集まって、それぞれが持っている物語を語り出すという冒頭から物語は始まります。
何が素晴らしいって、特筆すべきはややはり構成の妙です。物語の終盤にいたっても、きっちりと仕込まれた設定に関連性を探して何度も前の文章(短編)を読み返してしまうほど。ラストで語り部が仮面を取るシーンはゾクッとしました。
物を食べることなく、体を傷つけられても死ぬことがなく、冬至の日にひとを一人食べなければ生きていくことがかなわない人から生まれいずる存在、魔物。すべての短編が一つの物語として渾然一体となってからみあって、どうして人の間から彼らは生まれでるのか、シリアスな展開を通してその存在意義を問い続け、最後に結びついていくのはただただ素晴らしいとしか言いようがなかったです。最初には分からない舞台設定についても短編の折々でさり気なく言及されているのも上手いなあといった印象を受けました。細かいこと書くとネタバレになりそです。ただ物語の中で戦いによる痛み、家族の愛情の流転、喪失の痛み、畏怖され蔑まれる痛み、そしてその中から生まれる強固な結びつきなどを描きつつ、最後に残る何かを見せてくれるあたりは物語の素晴らしさを感じました。
一番印象に残ったとこ。
「貴方の息子は魔物です」
静かな声で私は言った。
「見下げ果てた化け物です。でもこれだけは信じてください。私は母を愛していました。こんな私を憐れみ、慈しんでくれた母を、とても愛していたのです」
父は涙に濡れた顔を上げた。ぎこちなく私の肩に両腕を回し、私のことを抱きしめた。暖かかった。懐かしかった。それだけで私は幸せだった。
とてもいいシーンですが、これでめでたしめでたしといかないのがミソ。
ちなみに殿下とクォルンの性別を最初の方では逆だと思いこんでいたのは内緒。