甘栗と金貨とエルム

甘栗と金貨とエルム

17歳の高校生・甘栗晃は、探偵だった父親が急死したため、父親の案件を引き継ぐことに。依頼は、ナマイキな小学生・淑子の母親探し。「美枝子は鍵の中に」という謎めいた文章を頼りに依頼人の母親探しをする晃は、ついに母親を見つけるが…!?太田忠司が送る、青春ミステリ!!

古本。
謎の方は探偵ものである割には自分の父親の関係が偶然突破口となるなど、推理ものとしては弱い部分があり、提示される謎に対しての結論はすこし尻すぼみの観。でも、やりたくない探偵を依頼人の淑子に父親に預けた金貨の件を盾にやりこめられて、渋々やっている高校生にしてはよく頑張っているのではないでしょうか。渋々引き受けた甘栗君の心が、段々と探偵の世界に引きずりこまれていくのがおかしかったです。太田さんらしい(と思える)少々苦い展開も、優しいタッチで描かれる物語にアクセントを加えていて良かった。
また、語り手の私こと甘栗君が依頼人の小学生の女の子について、しゃべり方が大人びているので背伸びしているなあと言う印象を抱いているのですが、そんな私の語り口も、他者にすげなく高校生ながら大人であるということを示そうと背伸びしているようで微笑ましい感じでした。エルムこと淑子ちゃんのキャラクターもとても大人びたところとまだ小学生だなと思わせる部分が同居していて、気を許したり、気をぬくとその部分が表に出てくるあたりが可愛らしいです。
ただ、青春ミステリと帯には銘打ってありますが、父親を亡くした彼は高校をやめる決意をしているので、当然高校には行こうとしないし、おかげで同級生も2カ所ぐらいと殆ど出てこないものだから、彼に片思いしている女の子や思惑の読めない友人が出てくるけれど、あまり物語に関わらないのが勿体ないなあ。甘栗君の絵の件もあわせてそのあたりは続編に期待。
柔らかいタッチのイラストも良かったです。しかし、他作品で主人公を務める藤森さんが出てきたときは吃驚した。