蒼林堂古書店へようこそ

蒼林堂古書店へようこそ (徳間文庫)

蒼林堂古書店へようこそ (徳間文庫)

ショートショートでは少し長め、短編と呼ぶにはちょっと短めな作品が14本詰まった一品。もうすぐ四十に手が届く男やもめのミステリ専門の古書店店主林を中心に、客に珈琲を出すという喫茶店のようなお店に惹かれて集まる面々の謎解きの物語です。大人びた高校生の柴田五葉、林と同級生の大村龍雄、新人教師の茅原しのぶらが集ってのミステリ談義。

一読して思ったことは、各話の中で出てくる謎は、ほんの些細なとも思うような、まさに日常の謎的なものなんですが、各種ミステリと絡めて、あるいは作中に登場させてからのテーマへの誘導はかなり労力がいるんじゃないかということ。作者自身が好事家じゃなければとても書けんよなあと思います。
ただ、決して敷居が高い作品ではなく、一方でライトな謎解き要素とともに各短編の末尾にミステリガイドの解説付きで、その趣向にそった入門書的な要素も持ち合わせていたりと様々な楽しみ方が出来る作品でもあります。
そして、最後の締めが何とも心憎い。連作短編だと最後の作品にはそれまでの伏線を一気に引っ張りだすような仕掛けが期待されますし、乾先生らしく、もちろんキチンとそういったものも仕込まれているんですが、最後まで趣向を凝らされた構成にちょっと脱帽してしまいました。
日常の謎を丁寧に積み重ねていく中に忍ばせられた彼女のささやかな思い、それが溢れ出す最後のお話。そしてちょっとした仕掛けにやられました。

その一撃で作品の見え方がガラッと変わってしまう作品や、重厚長大なミステリ作品も好きですが、こういった作品もよいなあと改めて思わされました。ミステリに興味があるもののちょっと敷居が…という方に勧めやすいんじゃないかと思います。おすすめミステリガイドも古今、硬軟取り混ぜてて好印象。