キング&クイーン

キング&クイーン (100周年書き下ろし)

キング&クイーン (100周年書き下ろし)

帯の煽りからいっても、昔チェスの世界大会で優勝した後失踪してしまった世界チャンピオンを守る元SPの女性ボディーガードと、それを狙う姿の見えない犯人の息詰る攻防…と思っていたんですがちょっと違うかなという感じ。チェスに見立てたアクションサスペンスを期待すると肩すかしになるかなと思います。
チェスのチャンピオンを護衛しながらの今の話と二人の人間の過去話が交互に挟まる構成なんですが、切り札的なものもありどうも命がけという感じが出ていないので、序盤何者かに狙われる現在の話がどうも間延びして見えます。終盤にそれも敵手の狙いということが分かってくると段々と面白くなってくるのですが。
「キング&クイーン」ということで、過去話の中では生真面目、努力家な元SPの安奈の過去と、チェスに打ち込む天才アンディの華やかなりし過去を対比して描いているのですが、それが終盤の伏線をずるっと引き上げるあたりは流石。誰が今実際に対決をしているのかという、全体を構成する物語のために巧みに作られたお話は、柳先生らしいトリッキーな部分が発揮されていると感じました。正直アンディの過去話に本物のアンディが登場するシーンは震えました。

全体の感想としては、キャラクターへの踏み込みは少ないものの、お話の作りとしてしっかりとした構成が根底にあり読ませる小品といった印象でした。ギャップとかを考えると事前の評判を一切耳に入れずに読んだ方が確実に楽しめるかなあとも思います。個人的に一番印象に残っているのは、アレな歴代チェスチャンピオンの方々の逸話なんですがw

深い読みと華麗な攻めで知られ、“史上最高の棋士”とも称されるアレクサンドル・アリョーヒンは、実生活ではひどい乱暴者であり、また重度のアルコール中毒患者であった。(中略)彼は、猫嫌いの相手と対戦する時は必ず二匹を同行させ、対局中は二匹を相手にずっと話し続けていた。彼は自分には猫と話ができる能力があると信じていたが、不利な局面になると彼は猫たちを盤上に投げつけた。

猫投げるて。