超能力者のいた夏

超能力者のいた夏 (メディアワークス文庫)

超能力者のいた夏 (メディアワークス文庫)

「あそこがあたしの家。前住んでた先輩はよく、〈寄る辺なき弱者が集う、イカれたこの世の果て〉って呼んでた。この言い方、ちょっと気に入ってるんだ」
歩み寄ってきた翼が、すっと手を差し出す。
「ようこそ、清流寮へ」
その手を取るのを、躊躇しなかったといえば嘘になる。感電の恐怖が脳裏をよぎり一瞬ためらった。そのとき差し出された小さな手が、微かに強ばっているのに気がついた。怯えているかのように。俺の躊躇を感じ取っているのかもしれない。そう思うと無性に恥ずかしかった。努めて自然に、しかしぎこちなく手を伸ばす。
「―うん、よろしく」

とあるトラウマを抱えた少年が主人公。彼は田舎の高校に転校し、そこで下宿をしながらのんべんだらりと過ごしていたが、津浦翼という少女と関わることによって下宿が全焼し、やっかいな力を持つ超能力者が集う寮に否応なしに引っ越すことになり…。ちゅうお話です。

ど真ん中剛速球。気恥ずかしいほどの青春ものです。いやもう、大好き。
主人公が転がり込んだ先の住人の超能力者たちは日常生活で便利使いするにはしょぼかったり、めんどくさかったりする力の持ち主で、そのくせ暴発したときのたちの悪さで半ば隔離されるように寮に住まわされていて、下手すると呪いのような力でもあります。ただ、その割に皆ポジティブなのが、全体として明るい雰囲気を作り出しています。
作品としてはそういった力と折り合いをつけながらの寮での騒がしい日常といった側面も楽しく読むことができるんですが、一方でそれぞれの内面は非常にナイーブだったり、卑屈になっている部分もあり、その一部と相対しながら主人公が受け入れて解き放っていき、最終的に恋の彩りを添えながら核となる二人の物語に突き進んでいく作りが読ませます。
何より、主人公が魅力的やなあと。ごくごく一般的な高校生でありながらも彼ら、彼女たち超能力者を受け入れてあげられる下地を持っていて、時に暴走気味にもなるけど痛みにもきちんと共感することのできる真っ直ぐさが、重たくなりかねない終盤の雰囲気を引き締めて爽やかな印象を与えていました。映像でみてみたいなあ、これ。

エンディングで彼がゴールした彼女に声を掛けるシーンとか妄想してにやにやしちゃいます。きれいにまとまっちゃってるんで次回作になるかもしれませんけど、次も期待してます。