七花、時跳び!
七花、時跳び!―Time‐Travel at the After School (電撃文庫)
- 作者: 久住四季,明星かがよ
- 出版社/メーカー: アスキーメディアワークス
- 発売日: 2010/05/10
- メディア: 文庫
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久住先生の新作はタイムトラベルものということで、迷わず手を伸ばしました。
あらすじでも強調されてるようにしょーもないことにタイムトラベル能力を使ってしまうあたりは、コミカルで肩の力を抜いて読める小品といった印象でした。そのなかでも、退屈な日常に飽いている柊と彼に振り回される能力者の後輩七花の関係性が一番の読みどころかなあ。彼と彼女が出会ったころから未来に至るまでに築いた、二人の関係が七花の様子から浮かび上がって色々想像出来るのが良かったです。無表情な女の子があんなになるなんて!それまで嫌みなほど空回っていた柊君が逆にたじたじになってしまう未来が良かったです。
まあ、自分としては鈴ヶ森さんの意味深な台詞が色々と気になるわけですが。
タイムパラドックスとしては行動によってどんどん分岐する平行世界とかのネタが好きなんで、今の行動がすべて定まっていて…という形での普通の収束は正直肩すかし気味かなとも思うんですが、世界を救うようなお話ではなくてタイムトラベルが日常の一部として収まっていってしまうようなこの作品ならまあいいや、なんて思ってしまえるわけでした。伏線なのか気になるところはあるんですけどね。
だれかこのなまけもののしりを
月日ばかりが過ぎていく中、思ったようにするべきことが出来ないというのは
もどかしいものです。この雑記も書こうと思いつつ、全く手がつかないのが悲しい。
http://www.big.or.jp/~pon/myst/enq05b.cgiやってみました。
もうレーベルが無くなってだいぶ経つんだなあとしみじみ。確か自分が読み出したのは初期の終わりぐらいからでしたが玉石混淆というべきか、名作怪作なんでもござれというべきか、何が飛び出してくるか分からないレーベルだったという印象があります。(特にラブ寄せ前)
ちなみに既読は178冊でした。まだまだだなあ。
リストを見返してみて特に好きだったのは「僕らA.I」「ブラインド・エスケープ」「空とタマ」「BAD×BUDDY」「なばかり少年探偵団」あたり。紹介とかしてみたいなあ。大半が絶版だろうけれども!
吉田先生とか今何してらっしゃるんでしょう。
身代わり
- 作者: 西澤保彦
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2009/09/01
- メディア: ハードカバー
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自分が前作を読んだのがおよそ7年前だから、それからしてもだいぶ経っています。
まあ、作中では時の経過は関係ないので、こちらが感傷を覚えるのは勝手なんですが、前作を超えても崩れずある四人の関係に懐かしさを感じてしまいました。未だ前作「依存」の影響下から完全には脱しきれないものの前進しようともがくタックやそれを守るタカチの関係、それを受け入れるボアン先輩とウサコがファンとしては愛おしく感じられます。まあ、それは作品全体でみると割合脇の話で、量的にもあっさりめな感じではありますが。
作品としては、過去と内面を大きく抉った前作(やそれまで)に比べると、殺人は起きているものの大分大人しい作品といった印象を受けます。人間の悪意を感じさせられる描写もあるものの、テイスト的には麦酒の知恵比べに近いかなあと感じてしまうのは、事件に巻き込まれるのがあまり近しい人ではなく、ラストの締め方のせいかも知れません。ただ、構図としては結びつけやすいんですが、2つの事件の不可解な点が一本の線に集約していくあたりは流石と感じさせられました。特に警官殺害の動機についての考察の部分の反転が面白かったです。
仕切り直しの一本ということで次はもうちょっと早いんですよねーと期待してます。ボアン先輩の恋物語もちこっと。
■
米澤先生のトークショーに行ってきました。
追想五断章にまつわるいろいろなお話(ヒントを受けた作品とか、作中の構成とか、ラストの余韻に対するこだわりとか)を聞けて非常に有意義な時間でした。対談相手の方も作品をよく読まれていて、受け答えがスムーズで楽しかったです。一番驚いたのは書店員の方に米澤先生が海外作品の作者名なんかを尋ねた際に、打てば響くように答えが返ってきた点ですが。感嘆しきりです。そして次回作の構想を話す際の米澤先生の予防線の張り方に萌…ゲフン、笑っちゃいました。とりあえず次の予定は古典部だそうですが、構想であそこまで固まっている作品(中学生もの)ならその次ぐらいには出るかなあと期待しています。
対談で挙げられてた作品のいくつかに興味を持ったので、今度読んでみようと思います。
退出ゲーム
- 作者: 初野晴
- 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
- 発売日: 2008/10/30
- メディア: 単行本
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初野さんの作品は「漆黒の王子」以外読んでいますが、これが一番のヒット作なの…かな?トリックの見せ方、物語の展開とも非常に面白い作品でした。
これまでに読んだ初野さんの作品と比較すると、言い方に語弊があるかもしれませんが、まっとうな青春ミステリです。他の作品では「水の時計」における脳死状態で意思疎通が図れる患者や、「1/2の騎士」の幽霊の少年等々どこかしらに非現実的な部分を含んだ要素が一つの味でもあり、物語の根幹に関わる大きな要素でもあったのですが、この作品ではその点が全く見られないことが逆に驚きでした。あまりにも普通すぎて。ただ、いきなりどどんと設定を持ってこられて、その上でロジックを組み立てられるよりは、読者に対して敷居が低くなっているのかなとも感じました。他の作品に比べると、青春ミステリと相まって取っつきやすい一冊といえるかもしれません。自分はどちらも好きですが。
さて、作品としてはある高校を舞台として、吹奏楽部の活発な少女と幼なじみの美少年のコンビが日常の謎を解いていく短編集で、それぞれの物語が独立した形になっています。小手調べの1本目の結晶泥棒は化学部での盗難騒ぎの真相を追うオーソドックスなもの。2本目クロスキューブではその死に罪悪感を抱く少女の死んだ弟の、残したパズルに秘められた謎をどういう形で見せるかという点が見物。3本目の表題作では一転、二チームに分かれて、外には外出したくない限定された状況という設定の上で、設定を付け加えつつ、相手チームの人間をいかに外に出すかという論理ゲームの応酬。そしてラストのエレファンツ・ブレスでは、少女の死に瀕した祖父が行方不明の時期に何をしていたのかを歴史を踏まえて解き明かす物語で、隠された設定が明らかになるごとに変わる祖父のイメージが印象的です。
日常の謎というと、小さな謎に対して論理的な謎解きを提示するというものを思い起こされると思いますが、それぞれの短編が毛色が違っていて、色々な楽しませ方をさせるつくりになっています。特に舞台設定を変えて、それまでの物語の印象を一変させてしまう手法は非常に魅せられました。
また、謎を解くことでその背景に隠されたメッセージ、物語を解き明かすので、物語が非常にきれいに纏まっているのも特徴的で、重たい過去を含んだ物語も、すっきりした後味に仕上がっていると感じました。ひとえに、登場人物の軽妙さもその一助になっていると思います。
個々の作品としてはどれも粒ぞろいなのですが、舞台上で演技しているうちにお互いのやりとりの中で設定が二転三転して、途中ではどう絡むのか分からなかった着地点に辿り着くストーリーの見せ方の巧さで表題作を推し。また、少女の家という舞台設定があって初めて成立する非常に綺麗なパズルと謎解き、読後の余韻を含めてクロスキューブが特に好みでした。
主人公周りの人が物語の根幹に絡むということはなかったし、続くことを示唆するような終わり方でしたので、続編にも期待したいと思います。
精霊探偵
- 作者: 梶尾真治
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2008/01/29
- メディア: 文庫
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梶尾氏の文庫落ち。一見推理ものに見せかけて、別に推理ものじゃないというか、SFでしょうかこの作品?とりあえず帯を書いた方は今一なものだと思います。どんでん返しはいいさ、確かにあったから。でもあの謳い文句を見たらセンチメンタル方面かと思うがなー。
熊本を舞台に背後霊が見られるようになった中年の私と、その力で助けてもらって強引に助手に立候補した小学生の小夢ちゃんが探偵役として行方不明者を捜査する前半は非常にいい。小学生にしては大人びた小夢ちゃんに振り回されてあたふたしている私のコミカルさと、調べが進むと表れる敵の薄気味の悪さというものがうまく出ていると思います。特に背後霊に聞きこみをしながらの捜査というのは独特で楽しかった。背後霊の中でも黒猫がいい感じです。
後半のホラーテイストな展開も良いと思うんですが、物語の収束の仕方がなんとも奇妙な味といった感じ。帯のおかげで消化不良なイメージを引きずってるんで、結末はちいとばかし好みではないという印象なんですが、「こちら側」の登場キャラクターがみんな魅力的な存在だったのが作品の魅力だなと感じさせてくれる作品でした。